ここに来てのワイアームの牙大豊作
「どうもー! 謎の素晴らしき凄腕冒険者のスバライトですー! ワイアームの牙在庫ありますかー!」
「はい、13本ありますねー」
僕はユニーク冒険者のライト。ちょうどポヌフールのギルド受付で言い渡された在庫の量に打ちひしがれているところだ。
「たまたま運のいい冒険者が大量に売りに来て在庫13本ってなんだよ! ふざけてるだろ!」
土地勘のない町を適当に歩きながら誰にともなく文句を言う。バリオン、タルエスタで在庫0だった所までは運が向いていると思っていたが、ここに来ての手のひら返しだ。ジョシュアはこの内1本を買うだけでいいが、僕は13本全部買わなければならない。
「1本で金貨500枚……13本なら金貨6500枚か……」
もう金貨の重みで潰れてしまいそうな量だ。よっぽどの名鍛冶師、魔道具師だってそうそうこんな量を買いはしないだろう。それだけの難関が僕の前に突きつけられている。
「いやいや落ち着け……一体なんのためにこんな顔を隠す謎めいた服装をしているんだ」
バリオンからずっとそうだったが、今の僕は新進気鋭のユニーク冒険者ライトではなく、謎の凄腕冒険者スバライトだ。凄腕だからドラゴンだって軽く倒せるし、Sランク向けのダンジョン依頼とかもガンガン達成できる。
「突如として現れた謎の冒険者がSランククエストをガンガン達成し、その金でワイアームの牙を買って去っていく……。その筋書きは変わらないはずじゃないか!」
バリオンでは塩漬けになった高難度クエストなどが掲示板にちらほら貼られていたものだ。その手のクエストはたまに来るSランクパーティが片づけていったり、なんならギルド側から要請して彼らに解決してもらったりする。
「正直次元の違う世界だったから報酬の額なんて知らないが……まあワイアームの牙数本分くらいはもらえるだろ! よし!」
町の屋台で適当に買った蛙のモモ串焼きを雑に口に放り込み、僕は改めてギルドのドアを開けた。
「オラ! ソロSランクパーティのスバライトが来たぞー!」
開幕が肝心なので、かっこいい口上とともに華々しくドアを開ける。よくよく考えたらさっき在庫確認のために来ていたので開幕でもなんでもないのだが、まあ気にしない。
依頼掲示板の前に立って眺めると、角に大きくSと刻印された張り紙が一件あった。その古ぼけた張り紙をかっこよくむしり取って、受付までずかずかと歩いていく。
「どうもSランクパーティです! このダンジョンクエストを受注しようじゃないか!」
どこからどう見てもSランクの堂々たる振る舞いだ。しかしやはりというか、受付がこちらに返してきた顔は不審の色に満ちていた。
「ええ……あなた一人でSランクなんですか? 本当に?」
「もちろんSランクだ! ちゃんとSランクの依頼をソロでクリアした事があるぞ!」
「はあ……」
こう言われては受付も無根拠に疑う事はできない。誰がどのランクかなんて証明できる仕組みは無いからだ。
というか実はそもそもそんな階級制度自体が無いのだ。冒険者界隈で〇ランクパーティだとか〇ランク冒険者だとかの言葉が使われているから勘違いされがちだが、実際に階級分けされているのはクエストの方であり、例えばその中のBランクをクリアできたパーティをBランクパーティ、そのパーティ所属の冒険者をBランク冒険者と便宜上呼んでいるに過ぎない。ランクはあくまでその冒険者自身が目安のために使用する情報であって、クエスト受注の権限を分けるためのものではないのである。
「えーとこちらはヒュドラ級のダンジョンですのでまず切った首を焼ける魔法、ヒュドラ毒への対処装備などが必要不可欠です。また、当然の事ながらダンジョンボスはヒュドラより一回りも二回りも強いモンスターが出ると予想され……」
「能書きは良い! 私は負けないから大丈夫だ! これを見よ!」
受付の念入りな確認を退け、僕は自分の胸に手を置いた。
「うおおおおお! Sランクヒール!」
自身に対して高出力の聖魔力を叩き込む。その神々しい光はギルド全体を暖かく照らし、それによりギルド内の視線がこちらに釘付けとなる。
「なんだあいつ!? あんな眩しいヒール見た事ねえ!」
「そばにいるだけで力が回復していく! これは一体……!」
「聖者だ! ここに聖者がいるぞ!」
上手い具合に冒険者達がギャラリーとなって僕の力を証明してくれる。先ほどまで乗り気でなかった受付も、びかびかと光る僕を見て口をあんぐりと開けている。
「どうだね、これでも不満か? ちなみに私が使えるのは聖魔法ばかりではないぞ」
「し、失礼いたしました! どうぞこちらのクエストを受注してくださいませ!」
慌ててクエストの受注処理を始める受付を前に、凄腕らしく高笑いで返す。
どうやら僕もなかなかSランクっぽさが出てきたようだな。この調子でダンジョンの方も軽く捻ってやろうじゃないか。
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