オッサン

「あっ」

「おお? なんだライトじゃないか! こんなところで会うとはのう!」


 昼休憩に酒場に寄ったら珍しく混んでおり、「相席でよろしいですか」と通された先には見知った顔のオッサンがいた。元パーティメンバーのガンドムである。


「あんたもやっぱり来てたんだな……」


「そりゃそうじゃろ。まあパーティーメンバーの故郷が困っとるようなら助けてやるくらいはな」


 ここにきて人情味のある事を言い始めるオッサンに、胡散臭い気持ちにさせられる。その視線に気付いたのか、ガンドムは軽く笑う。


「そんなしけた顔するない、お前さんの故郷でもあるんだから!」


 まあそりゃそうなんだが、別に僕の助けを聞いてここに来た訳でもないだろう。


「その口ぶりだと他とはもう顔を合わせたみたいだのう。どうじゃ、そろそろわだかまりは溶けたか?」


「ああ、仲良くやってるさ」


 村に来てから一週間、相変わらずアナスタシアは僕に対しておっかなびっくりだし、マリアは僕が黙って小説を読もうとするのにひたすらちょっかいを掛けてくる。


 ガンドムは僕の態度から色々を察したのか、やれやれとばかりにため息をついた。


「ワシらだってなにもお前が嫌いで追い出した訳じゃないわい。ただ冒険者ってのも生きるための仕事だ、感情面を優先しにくい場合もある」


「だとしても、あの時少しくらいは僕の肩を持ってもよかったんじゃないか?」


 言いたい事はわかるが、僕を追い出すときの彼の態度はあまりにあっけらかんとしすぎだったろう。なんなら悪意すら邪推してしまう。


「あそこで下手に庇っても話が長引くだけじゃろうが。お前さんは何故追放されるかもいまいちピンと来とらんかったからな」


 そう言われたらやはり黙るしかない。話せば話すほど知れば知るほど、僕が形にするはずだったはずの言葉は無くなっていく。この村に来てからずっとそうだ。


「いいか? ジョシュアみたいな私情は無くとも、お前を外す発想自体はおそらく全員が持っておった。だがそれでも皆そこに気付かないふりをし続けてきたんじゃ」


 エールを一口二口飲みながら、ガンドムは話を続ける。


「お前はメンバーに対して冷たいと思ったかもしれんが……利益を度外視でお前と一緒に冒険し続けてきた仲間の気持ちは汲んでやるべきじゃないかね」


 気持ちか。逆の立場だったらそいつに対してどう思うだろうかと考えてみたが、今の僕の頭には様々な感情が入り混じり過ぎていてわからない。


「ジョシュアの私情ってのは孤児院への寄付の事か……それも僕だけ知らなかった」


 考えてもわからないため、別の事について触れる。孤児院の事はどうせガンドムも知っている。


「いやあ、だってそりゃ言えんじゃろうが。お前さん毎日毎日、耳にタコができるくらい家を買いたいって……」


「それはもういいよ! わかったから!」


 どいつもこいつも僕の至らなさを突きつけるような事しか言わない。マリアにも一度寄付金の事について聞いてみたが、「気を落とさないでくださいよ、私だって寄付にはちょっとしか協力してませんでしたよ!」との事だった。もう色々と聞くんじゃなかったと思って本にかぶりついた。


「まあまあ、確かに一人だけ教えなかったのは悪かったよ。お詫びと言ってはなんだがノウィンの最新情報を教えようじゃないか」


 急に毛色の違う話題をぶっこんでくるガンドム。誤魔化しの匂いもするが、ノウィンの話と言われると気にはなる。


「これはノウィンのギルド長から聞いたんじゃがな……今から三日後、冒険者ギルドの本部からお偉いさんが来るらしいぞい」


 ノウィンのギルド長……そういえばあの一人だけ配置されてたやる気の無さそうなギルド職員はギルド長なんだよな。そりゃ一人しかいないならそいつが長だからな。


「こんな交通の便の悪い田舎村に何でお偉いさんが来るんだ?」


「何でって、そりゃお前……」


 ガンドムは少しだけ意味ありげに言いよどんだが、エールをまた一口飲むと改めて口を開いた。


「検証と聞き込みに決まってるさ。を探るためのな」


 その一言に、不貞腐れて横になっていた僕の心臓が一気に跳ね上がった。その勢いで僕自身まで跳ね飛びそうになるほどに。

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