魔王

 魔王は今から何百年も前に生まれ、『モンスター創造』のスキルで世界に魔物を産み落としていったという。何故彼がそんな世界を滅ぼすような真似をしたのかその理由は現在でも明らかになっていない。まあ多分信じた仲間に追放されたとかそんなんだろう。(独自研究)


 魔王が生み出した魔物は人類に壊滅的な打撃を与えていった。魔王は何ら失うものすら無く延々と魔物を生み出し続ける。魔物自体もダンジョンを作り、さらなる魔物を生む。わずか二日で世界は魔物に埋め尽くされた。『魔の二日間』と後世の人は呼んだと言う。


 そしてその二日が終わる頃に魔王は。これについては誰がやったのかは謎のままだ。ただとある人里に魔王の死体が無造作に打ち捨てられていたという。まあ何が起こったのかはわからないが……いつの世にも規格外の人間はいるのだろうなと僕は思う。


 さてそのようにして魔王は死んだ訳だが、残されたのは世界中に散らばったモンスター達だ。これに関しては誰かが一掃してくれるといった都合の良い事も起こらず、人々が力を合わせて討伐していく他無かった。そのために結成された組織が今の冒険者ギルドの前身だという。


「冒険者ギルドってどんなところ? 楽しい?」


 並んで腰かけた僕たちは近況を交換しあう。ちなみに森の中で何に腰かけているかといえば、そこにあったちょうどいい形の岩である。


「いやあ、ガラの悪い人間が集うしょうもない所だよ。職員の人たちは良い人なんだけどね」


「ふーん」


 というか、ギルドならノウィンにもあるはずだ。まああれから彼女が毎日村の周りを歩き回ってモンスターを寄せ付けない破壊しているため、村のギルドは本当にあるだけになってしまったが。どうせ村からの依頼料もろくに出ないし親切な冒険者がついでに引き受けたりしているだけだったので、ギルドが暇になっても特に問題は起こらなかったという。


「でもダンジョンを掃除したら村が劇的に変化すると思ってたのに、相変わらず質素なんだよねー。そもそも人が来ないんだよ。結局は村と森の中だけで完結しすぎって感じ」


 彼女の言う通り、この村は結局とことん立ち寄るメリットが薄かった。森にあるのは豊富な食糧くらいで、せいぜい質の良い薬の素材くらいか。それだって既に大きな町が養殖の手法を確立している。


 とはいえ、なんだかんだ彼女の働きによって村の生産性は向上し、孤児院の生活も少しだけ改善された。孤児達は多少身綺麗な格好になり、ステラとも親しく話すようになった。


 初めはただ感謝と尊敬の念で彼女に接していた孤児達も、付き合っていく内に彼女の人柄に圧倒されていった。興味を持ったことになんでも首を突っ込む積極性。日に何kmも歩き回って魔物を破壊するバイタリティ。


 彼女はその功績のみならず、実際に触れた人間性によっても人の心を捉えていった。その流れは孤児のみならず、町に立ち寄るわずかな旅人も巻き込み広がっていく。


 そして彼女は、いつしか周辺の村や町からも賞賛されるようになったのである。弱冠8歳にして危険も顧みずにモンスターを掃討した傑物……『勇者』と呼ばれるように。

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