ステラ
「いやー、ほんの一年くらい前かな? そろそろ砕けるんじゃないかなって思って試したら砕けてさー! ライトも砕きたかったよねー! あ、でもちょっと大きい欠片くらいならまだ落ちてるよ。やっとく?」
大岩を砕いた武勇伝を軽めの調子で語りつつ、ごつい小岩をスッと差し出す幼馴染のステラ。そういえば彼女も鍛錬の場によく顔を出していたが、その力はジョシュアに匹敵するくらい強かったな。まさか村に残った彼女が今でも自主的に鍛錬を続けていたなんて驚いたが。
僕やジョシュアは孤児だったから冒険者を目指した。孤児が成り上がるために就く職業第一位。腕っぷしさえ強ければ頭角を現すことができる単純明快な夢を目指して僕たち孤児は村を出る。
一方、ステラの生まれは孤児ではなかった。この村の孤児は孤児以外の子供を敵視する風潮があったため、最初は彼女も孤児仲間から遠巻きにされていた。だが僕は彼女の着ている服がいつもボロボロだったために大体孤児でいいだろうと思って普通に仲良く接していたのだ。
まあ、その彼女が町長の娘であると聞いた時はさすがに驚きもしたものだが……。
「すごいよねほんと! 最初に孤児院周りを歩いた時はびっくりしたよ! だってメタメタに汚いかっこした子供がうろうろしてるんだもん! どうしたのって話しかけても無視されるし!」
お前の格好も大概ボロボロだっただろと胸中でツッコミを入れる。とはいえ彼女のボロボロさは孤児のものとはやや性質が違っていた。単にそこら中をアクティブに走り回るから服がボロボロになるというだけの話なのだ。孤児というより野生児である。
「教えてくれたのはライトだけだったねー。孤児って知らなかったもん。それでお父さんになんとかしろって詰め寄ったんだけど、村にはお金が無いからってさ。世知辛いよね!」
全くその通り、僕たち孤児はいつも飢えていた。孤児から彼女への当たりが強かったのはその辺の事情もあったのかもしれない。
「ま、だから
そう言い、懐かしそうに空を見るステラ。何の事もないように回想するその様に、やはり彼女という人間は
ノウィンの村は僕の生まれた頃にはずっと魔物の対処に手を焼いていた。人間の生活環境は周囲のダンジョンを一掃する事によって初めて保たれる。そのダンジョンの排除人たる冒険者ギルドへの依頼料が村の税収だけではどうしても捻出できなかったのである。
何もない村でも他の人里へと移動する足掛かりとなるため、本来なら近くにある栄えたバリオンの町などがもっと援助していてもいいはずであった。
だがノウィンは立地が悪い。山脈の裏側にほぼ張り付くような位置に建てられた村は旅の中継地点とするにも旨味が少なかった。
おそらく大昔の先祖達は森の恵みによって生活をしていたのだろう。だが世界にダンジョンが現れるようになってからはその森の恵みはモンスターのものとなった。ダンジョンから溢れたモンスターが餌の豊富な森にとどまり、そこを根城とする。たまに大規模な掃討が行われた時だけ人々がその恵みに預かれる程度だった。つまりノウィンは遅かれ早かれ滅びる運命を匂わせていた。
そこをなんとかしてしまったのが目の前で回顧する彼女、ステラだ。彼女がユニークスキル……『モンスター破壊』でなんとかした。
剣が使えるとか魔法が使えるとか料理ができるとか、一般的な
運動は体力を、魔法は魔力を消費するのが常だが、ユニークスキルはいくら使おうが何のリソースも消費しない場合が多い。彼女のモンスター破壊も例のごとくその手の能力であった。だから使いたい放題だ。『モンスター破壊』し放題。
彼女のモンスター破壊はその名の通りモンスターを破壊し消し去ってしまう。少なくとも視界内に捉えているモンスターは一瞬で消せる。彼女が消そうと思った時点でもう相手側に逃れるすべは無い。
そして更に神がかった事に彼女の能力は
つまりこれがあれば10歳に満たない少女でもダンジョンを一掃できるという事だ。そして実際に村の周りに蔓延る野放しだったすべてのダンジョンを彼女は数日かけて綺麗に消してしまった。もちろんある程度の危険はあっただろうが、彼女はなんだかんだで昔から強かった。
「知らなかったんだよねー、自分の能力がこんなに価値あるものだったなんて。物凄いアイデアだと思ったんだよ、村の周りのダンジョンを一掃してやろうって考え付いた時。でもやった後そりゃやるでしょって空気だったからあれー?ってなったね」
相変わらずとぼけたことを言う女だと思いつつ笑みがこぼれる。この僕よりわずか1歳上……17歳の少女が人の歴史に残りかねないレベルのユニークスキルを持っているだなんて。
歴史に残るというのは大げさな話ではない。彼女のモンスター破壊はかつてとある人物が持っていた『モンスター創造』というユニークスキルと対になるものだと言われているのだ。
そう、はるか昔、この世界に魔物を生み落とした……『魔王』と呼ばれる人物。魔物にとっての創造主が使っていた世界滅亡級のユニークスキルと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます