【漫画化】もしもチート小説の主人公がうっかり人を殺したら

ガッkoya

ユニークスキル:『完全なる盾』を持った僕が追放なんてされる訳ないよね!

 恐ろし気な唸り声、数多の生き物の気配が石の壁に反響する。冷たい通路の伸びる果てに行きつく大扉は死地への入口だ。人々がダンジョンと呼び恐れる悪質な魔物製造施設、その最奥……ボス部屋への扉。


「オラ! 開門!」


 前衛二人が左右から思いっきり蹴りつけ、両開きの戸を一斉に開け放つ。でかい扉の先にはでかい部屋。狭苦しい通路の先に唐突に表れた、広大な空間である。


 その中央に見上げるほどの巨体を持つモンスター魔物がいた。モンスターはその鎌首をもたげ、ゆっくりとその眼を見開き、こちらに視線を向ける。


「ドレイクか! ダンジョンが長かった割に拍子抜けだな!」


 パーティの先頭にいたジョシュアが先陣を切って突撃する。その動きに合わせてドレイクが人の頭ほどの火球を吐くが、彼はそれを無駄のない動きでかわしていく。ゆるまぬ速度で懐まで接近した彼は、一番槍とばかりに竜の腹を剣で切りつけ出血させた。そしてその勢いを殺さないままに竜の背後へと回り込む。


 現在対峙しているのは最下級のドラゴンであるドレイク。その中でも火のブレスを吐くファイアードレイクは既にこのパーティで三度倒していた。


 ドラゴン特有の傲慢さなのか最初眠たげだったドレイクも、一度切り付けられた事でその動きが激しくなる。後ろに回り込まれた失敗に焦ったのか、ジョシュアを追ってその巨体を後ろに振り向かせた。


「何処を見ておる、トカゲ野郎が!」

 その振り向いたドレイクの背後に、パーティでも最重量級のガンドムが斧を振り下ろした。はちきれんばかりの筋肉で叩きこまれた金属の刃は竜種の固い肌も容易く貫通し、ウロコに護られていたはずの肉と血を盛大に飛び散らせる。



「アイスニードル!アイスニードル!アイスニードル!アイスニードル!」

「サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!」


 ジョシュアが先陣を切った時に既に左右に分かれていた魔法使いのアナスタシアとマリアが、攻撃魔法をこれでもかとばかりに滅茶苦茶に連射する。嵐のように氷をぶつけられたドラゴンの動きは凍えて緩慢になり、電撃は肉体の固さに関係無くじわじわとダメージを蓄積させていく。戦闘開始からわずか20秒足らずで大量の攻撃を押し付けられたドラゴンは、対処の優先順位すらわからぬようで困惑したような鳴き声をあげている。


「オラ、トドメ! いつまでも生きてんじゃねえ!」


 悪あがきの噛みつき攻撃すらもかわしたジョシュアが、絶好の角度とタイミングでドレイクの首に大剣で斬り込む。攻撃のために伸びきった長い首は無骨極まる鉄塊の勢いと鋭さを100%フルに叩きこまれ、ドンと巨大な紐が引きちぎられるような音と共に一息に両断されてしまった。


「やったー! 完璧はまってたじゃん楽勝だよ!」


「うふふ! 気を抜いてはだめですよ! いくら私達が最強とはいえ!」


 アナスタシアとマリアがきゃいきゃい喜んでいる。ダンジョン攻略の〆であるボス戦にこれだけ気持ちよく勝てたとなれば、そのはしゃぎようも理解できようものだ。


 だが勝利に口角を上げたパーティの視線の交わる中心、ドレイクの残された体が突然まばゆい光を放ち蒸発した。その身体に蓄えられていた全ての質量が膨大な魔力へと変わり、床に落ちた生首へと一気に吸収される。トカゲめいた目が生き死にの摂理に逆らうようにギョロリと見開かれ、その頭がスっと宙に浮く。


「やべーぞ! ファイナルアタッククソみてーな悪あがきだ!」


 ジョシュアの言い切るよりも早く、ドレイクのそのアギトから特大の魔力球が発射された。直径1mを超える黒い塊……いやその大きさよりもなによりヤバイのが込められた魔力の量だ。ドラゴンという最強種の生命を構築するおよそ全ての魔力が殺意となって迫りくる!



 その矛先が向いたのは



 ドレイクにトドメを差したジョシュアではない



 その次に近くにいた重量級のガンドムでもない



 左右から魔法を連発していた憎き魔法使い達、アナスタシアとマリアでもない



 つまり!



「え!? 僕!?」



 そう、僕に向いていた! パーティにおいて唯一剣の技と魔法を両立して戦える魔法戦士の僕に!



「ラ、ライト!!」


「ライトに放たれた! 超弩級のファイナル誰も幸せにならないアタック最強の一撃が!」


「これは死んだぁ!」



 迫り来る魔力球の圧力に、世界がスローに見え始める。ジョシュアが宙に浮く頭に振り下ろした剣が今更頭頂部に食い込んでいた。



 剣と魔法を両方使えると言うと聞こえは良いが、その二つの道を極める速度はどうしても剣士と魔法使いに後れを取ってしまう。剣士ほどの固さは無く、防御魔法も魔法使い任せにしてしまいがち。ファイナルアタックを無力化できる魔法なんてのも聞いた事がない。


 そもそもファイナルアタックなんて数年に一例くらい運の悪いパーティが事故みたいに引っ掛かる、その程度の稀有な出来事だ。モンスターが殺された怒りのままに己の魂までも燃やし尽くし攻撃へと転化する奥の手。あのドレイクは魂を削られるという根源的な恐怖すらも超越する怒りを僕らに抱いていたというのか? ぼこぼこにやり込められて瞬殺されたくらいで!



 正直言って、こればかりはどうしようもなかった。普通に冒険者として生きていればファイナルアタックなんてどれだけ大量のモンスターを殺したとしてまずくらわない、それぐらい珍しい現象なのだ。



 魔法戦士にファイナルアタックが飛んだ時、そいつはどうなる? と聞けば、まあそれは死ぬだろうなと誰でも答えるだろう。なんなら戦士だろうと魔法使いだろうと答えは変わらない。普通は死ぬんだこんなの。




 そう、普通は死ぬ。だ。




「ユニークスキル:『イージスの盾』! 発動!」


 かざしたその手の先に『盾』が出現する。幅1m程度の正方形の盾。

 その盾があらゆる全ての攻撃を防ぐ事を完全なる前提とし、僕は後方へと勢いよく飛びずさった。


「うおおおお!」


 爆発音が響き渡った。石壁にヒビを入れんばかりの大音量大振動が部屋内を駆け巡り、目の前の空間が白と黒の明滅を繰り返す。その直撃の風圧だけでまともに立っていられないくらいの局所的な嵐が発生した。アナスタシアとマリアは転んでいる。



「ライト! どうなった!?」



 ガンドムが爆発の余波の地響きの中、負けじと大声を張り上げる。生きているか?という確認である。返事があれば生きている。



「いてて……ああ、なんとか無事だよ」


 爆風で壁まで飛ばされつつも、僕は大した怪我を負ってはいなかった。イージスの盾はファイナルアタックを完璧に防いでいた。


「相変わらず頑丈だな。お前自慢の……見えざる『完全なる盾』はよ。」


 戦利品のドレイクの角を抱えて戻ってきたジョシュアが改まって呟く。まあ見えないのは他人からであって、僕からは明確に見えているのだが。


「あーびっくり! でも死んでなくてよかったねーライト!」


「いやいや、びっくりしましたね~! 終わったと思いましたよ私も!」


「狙われたのがライトでよかったのう、がっはっは!」


 アナスタシアとマリアが駆け寄ってきて声を掛けてくれた。ガンドムに至っては一安心とばかりに趣味の悪い冗談まで言ってくるが、僕もその悪い冗談に対しては心から同意したい気持ちで一杯だった。


 本当に誰一人欠けずに勝てて良かった。戦士のジョシュアとガンドム。魔法使いのアナスタシアとマリア。そして魔法戦士の僕、ライト。誰が欠けてもパーティとして成り立たない。冒険者が富を求めてダンジョンを攻略しているのはもちろんだ。しかし、それ以外に何も大事なものが無い訳ではない。


 僕達はこれからも一緒に最強の冒険者を目指すんだ。そう、一人がみんなのためにみんなが一人のために! それがこのパーティ……『太陽の絆』を結成したあの日からの誓いなのだから。


 だって僕達五人は……かけがえのない仲間なのだから!

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