第6話変化
アルバートはシルビアが少し部屋の整理をしたいと言うので手伝うと申し出たが全力で断られてしまった。
残念に思っているが部屋から押し出そうと両手で必死に背中を押すシルビアを間近で見れたので良しとする。
「シルビア、まだ時間があるから僕は少し学園を見てくるね。教室に行く時は送るから一緒に行こう」
「は、はい」
困った顔でも決して断らない優しいシルビアにアルバートは愛しさしかわかなかった。
アルバートは部屋を出ると綻んでいた顔がスっと戻る。
どうもシルビアの前でだけ顔の筋肉が緩むみたいだった。
シルビアのいない今、笑う必要がなくなりそのまま用事を済ます為に学園長達のいる職員室へと向かった。
トントン…
アルバートが扉を叩いて中へと入ると学園長が顔を見るなり驚き駆けつける。
「何か不備でもありましたか!?」
慌てる様子に手で制止させた。
「大丈夫です。それよりも妹のシルビアの事でお聞きしたい。シルビアは成績優秀なはずなのになぜ何も優遇されていないのですか?」
先程の朗らかな様子は消え去り冷淡に聞く。
本来アルバートとはこういう人間だった。
「そ、それは…」
学園長の顔が青く染まる、冷や汗をかいて必死にハンカチで拭っていた。
「しかもシルビアはこの学園の庭で倒れていたとお聞きしました。令嬢が庭で一人倒れる警備で良いのですが?今後その辺も見直しして頂けますでしょうか」
「も、もちろんです。今!今検討していたところでした…シルビアさんの待遇もすぐに見直します!」
「それならよかった。よろしくお願いしますね」
シルビアの事を思うと自然と笑みがこぼれた。
ほっとしている学園長へ再度お願いをしてアルバートは急いで部屋へと戻った。
「ただいま」
部屋に入り共同のリビングにいき、お茶を用意する。
片付けが済んだらきっとシルビアはこの部屋に来ると思い疲れたシルビアの為に心を込めたお茶を用意した。
しかしいくら待っても部屋からシルビアが出てこない。
少し心配になって扉に近づいてみると中から物音一つしなかった…
まさか?
アルバートは扉をノックしたが、反応がない。
「シルビアごめん」
居たら謝ろうとアルバートは迷いなく扉を開けた…しかしそこに最愛の妹は居なかった。
「シルビア…何処に?」
先に行くことはないと思う…一緒に行こうと約束した、シルビアはそういう事を守る子だとアルバートはわかっていた。
申し訳ないと思いつつアルバートはシルビアの部屋を軽く探る。
すると机の上にこれからの授業の準備がされていたが途中のようだった。
「まさか前の寮に?」
何か足りないものでもあったのかもしれない。
アルバートはすぐに部屋を飛び出しシルビアが前に使っていた寮の部屋に向かってみた。
◆
アルバートの読み通りシルビアは教科書の間に挟んでいた栞が無いことに気がついた。
昔から使っていて愛着もある、時間もまだあったので前の寮に探しに行くことにした。
すぐに戻るつもりでいたので書き置きも残さずにサッと部屋を飛び出した。
しかし今はそれを後悔していた…
「あら、誰かと思ったらシルビアさんですよね?なんか少し雰囲気が変わりました?」
寮に行く途中にバッタリとセーラ様に出くわしてしまったのだ。
「セーラ様、ほら前髪が少し変わったみたいです。いくらいじっても中身が変わらないと意味ありませんけどね」
クスクスと後ろでは取り巻き達が笑っていた。
「私用があるので失礼します」
この人達に構ってる暇はないと横を素通りしようとするとばっと足を出された。
サッと避けてそのまま通り過ぎようとすると…
「ちょっとお待ちになって!そのまま通り過ぎようなんて失礼じゃない?私達は少しお話しましょうって話してるだけよ」
セーラ様に呼び止められてシルビアは振り返った。
「私構ってる暇はないんです。それにセーラ様…そういうのもうやめませんか?気に入らないからって人をいじめるなんて令嬢として恥ずかしいと思いますよ」
昔の記憶が断片的に戻って気がついた。
セーラ様達のいじめなんて生ぬるい事に…昔に受けたいじめの方がより陰湿で酷かった。
それにアルの事も思い出した今、こんな事で負けてられない!
シルビアは震える手を握りしめてセーラ様を睨みつけた。
「その顔はなんですの…」
セーラ様の綺麗な顔がみるみると険しくなり恐ろしい形相になった。
まさか今まで大人しく何も逆らいもしなかった私が急に態度を変えたことに憤怒している。
そんな顔を見るだけで今からでも謝ろうかと思っていると…
「どうしたんだい…」
アルバート様がいつの間に来たのかじっとこちらを見つめていた。
いつも向ける穏やかな顔はなく冷淡にセーラ様達を見つめる姿にゾッと寒気がした。
「なんですか!?」
セーラ様は虫の居所が悪いところ声をかけられて不機嫌に振り返るとアルバート様を見て驚き固まった。
「いったい女性達が集まって何をしているのかと…と聞いてます」
アルバート様からは何か怒っているような雰囲気がするがセーラ様達には分からないようで頬を赤らめてオクターブ高い声でアルバート様に近づいた。
「なんでもありませんわ、少しお話をしていただえです…それよりも見ないお顔ですが…」
「これは失礼しました…私アルバート・シスレーと申します」
ジッと威嚇するようにセーラ様を睨みつけている。
しかしセーラ様はそんなアルバート様にさらに頬を染めていた。
「すみません…失礼します」
私はなんだかいたたまれずにその場から逃げ出した。
「あっ!」
アルバート様の声が聞こえた気がしたが私は振り返る事無く走り去った。
◆
「シルビア…」
アルバートは縮こまって走り去るシルビアをじっと見つめていた。
するとシルビアと話してるいた女が臭い匂いを振りまきながら近づいてくる。
あまりの臭さに顔を顰めて一歩下がった。
シルビアと話していたからもしかしたら友達なのかもしれないと思うとあまり無下には出来なかった。
「すみませんが用があるので失礼する」
アルバートはシルビアを追いかけたいので早々にその場を離れようとする。
「待って!」
するとその女に腕を掴まれた。
家族でもなければ知りもしない未婚と思われる女に馴れ馴れしく体に触られて嫌悪感がつのる。
しかし女は手を離すどころかさらに腕を絡めてきた。
「この学園は初めてですか?私セーラ・アビットと申します。アビット侯爵の娘ですわ」
「ああ」
聞いた名前に頷いた。
確か父のそばにいたような気がする…だがその程度の男だった。
どうでもいいのでシルビアを追いかけたいアルバートは手を離そうとするがさらにガッシリと掴まれた。
そして何を思ったのかセーラはニコッと笑ってアルバートの腕を引っ張り逆方向へと行こうとする。
「よろしければこの学園をご案内しますわ、素敵な庭園もありますの、よかったら一緒に…」
口元を隠して上目遣いに見つめられる。
アルバートはセーラの行為に寒気がした。
思わず腕を引っこ抜き距離を取る。
「え?」
セーラの呆気にとられる顔にしまったと繕った。
「すみません、少し急いでますので失礼します」
向こうが何か言う前にアルバートは素早くその場を去った。
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