第7話お昼ご飯
「セーラ様、あの方はどなたですか!?」
アルバートが去るとセーラの取り巻きが詰め寄ってきた。
「私も初めてお目にかかりました。素敵な方…」
今思い出してもあの精悍な顔つきに胸が高鳴る。
「お父様に聞いてみればすぐにわかるでしょうけど…」
「え!セーラ様狡いです」
取り巻き達から文句が出るとセーラはキッと睨みつけた。
「悔しかったらあなた方も親に頼んで学園に寄付すればいいじゃないですか。微々たるお金ですよ」
セーラの勝ち誇った顔に取り巻き達は文句が言えなくなる。
セーラは親の寄付金のおかげで学園では誰も文句を言う人がいなかった。
なのでシルビアの事もセーラが嫌がらせで優遇処置や融資の話は流れていた。
「それにしてもシルビアさんの態度はよろしくありませんね」
「そうね、今まで逆らったことなんてなかったのにどうしたのかしら」
アルバートの登場でシルビアの怒りが収まっていたのにセーラの心にまたメラメラと怒りが湧いてきた。
「本当に…私にあんな態度をとって…次はもう少しはっきりと立場をわからせないといけませんね」
「ふふ、楽しそう」
「セーラ様こわーい」
クスクスと笑う取り巻き達にセーラは行くわよとスカートをひるがえした。
◆
「ふー」
シルビアは前の寮の前まで小走りに来てようやく息をついた。
さすがにここまでは追って来ることは無いだろう…シルビアは扉を開けようと取っ手に手をかけようとして自分の手が震えていることに気がついた。
カタカタと揺れて取っ手が上手く掴めない。
シルビアは両手を握りしめてギュッと瞳を閉じると深く息をする。
「初めて抵抗した…」
自分の変化に戸惑いもあるが嬉しくもあった。
「アル…見ててくれた?私ちゃんと言い返してやったよ…」
アルの為に頑張れた…そう思って思わず声が漏れる。
「シルビア?」
「え!?」
「シルビア、どうしたの震えてるよ」
目の前にアルバート様が現れて震える私の腕を見て泣きそうな顔で壊れ物でも扱うようにそっとその手を包み込んだ。
「こんなに冷たくなって…どうしたの?さっきの人達に何かされたの?」
「ち、違います…大丈夫ですから」
シルビアは顔を下に向けた。
アルバートは何も言わないシルビアの体をゆっくりと抱き寄せて包み込んだ。
「僕はいつだって君の味方だよ。だから頼ってよ」
耳のそばでアルバート様の声が聞こえた。
まるで私よりも苦しんでいるような声に胸が締め付けられる。
「ありがとう…ございます。でも大丈夫です」
体の震えはいつの間にか消えていた…
アルバート様の体の温もりが移りなんだか安心する。
まるでアルに包まれているようだった。
目を閉じてアルバート様の長い髪が頬に触れるとアルと錯覚しそうになる。
「アルバート様…あったかい」
「あっ!ごめん苦しかったかな」
アルバート様が慌てて体を離して、顔を覗き込み不安そうな顔をする。
「ふふ、そんな顔をしなくても怒ってませんよ。私の事を心配してくれたんですよね」
「そうだけど…まぁ今はそれでいいよ」
アルバート様から意味深な言葉を言われて、頭を撫でられた。
「もう、私子供じゃありませんよ」
「僕より子供でしょ、さぁそれよりも何を取りに来たの?」
アルバート様が扉を開けてくれた。
私は中へと入りガランと綺麗になった部屋を組まなく探すが栞は何処にもなかった。
「はぁ…」
なんだか残念に思いため息をつく。
「何が無かったの?」
「栞です、ずっと使っていたもので…でももう古くなっていたし仕方ないですね」
いつまでもアルバート様を付き合わせる訳にはいかずに私は部屋を出た。
そのまま新しい部屋へと戻り授業に行く準備をする。
「準備はいいかい?」
アルバート様は既に準備を終えて私を待っていてくれた。
「はい」
私はアルバート様と途中まで一緒に行くと別れ道で声をかける。
「アルバート様は上の階ですよね?私は下なのでここで…」
「送っていくよ」
当たり前のようについてこようとするのを必死に断りどうにか上の階へと行かせた。
「なんであんなに構うのが好きなのかしら?」
私は首を傾げながら教室へと向かった。
久しぶりの授業だったが思たよりも内容が進んでいなくて安心する。
急激な生活の変化に戸惑いが大きかったので淡々とした勉強の時間が久しぶりに穏やかな時間に感じた。
あっという間に授業が終わりお昼になってしまった。
あっ…そういえばご飯の用意をしてなかった…
いつもお昼は朝起きて準備して人がいない所で食べるのだが…うっかり忘れていた。
アルバート様もいたので作るのは無理だっただろうが…
私はどうしようかと立ち上がるとセーラ様がこちらを睨みつけていることに気がついた。
何か言われる前にサッと教室を飛び出す。
食べるものはないがとりあえず人気のないいつもの庭園の端にあるベンチに行って休む事にした。
「ふー」
誰にも邪魔されない自分の場所で空を眺めてくつろいでいると…
「みーつけた」
顔の真ん前にアルバート様の笑顔が現れた。
「きゃっ!」
私は驚いてベンチから落ちそうになると「おっと」アルバート様がすかさず支えてくれた。
「ごめんね、脅かしちゃったみたいだね」
「大丈夫ですけど…そろそろ下ろしてください。重いですから」
支えられたまま抱っこされていたので下ろして欲しいとお願いする。
「重くないよ、それよりも軽いくらい。ずっと抱っこしてられるよ」
ニコニコと笑ってゆっくりと地面に下ろしてくれた。
「アルバート様ここに何かようですか?」
周りには何も無いのでなんの用かと聞いてみる。
「シルビアを探してたんだよ。一緒にご飯を食べようと思ってね」
「私と?いえ!アルバート様はご友人とお食べになってください」
断るとアルバート様は顔を歪めて隣のベンチに座った。
「シルビア、僕は今日転入したんだよ。友人なんていないんだ…それに君と食べる方がきっと美味しいからね」
そう言って袋を取り出す。
「さっきサンドイッチを作って貰ったから一緒に食べよう、シルビアもまだ食べてないだろ?」
サンドイッチを目の前に出されるとお腹が空いてきて「ぐぅー」とお腹が鳴ってしまった。
慌ててお腹を押さえるがしっかりとアルバート様に聞かれてしまった。
クスクスと口を押さえて笑っている。
「シルビアはお腹の音まで可愛いね」
はいっと一つ取り出して渡された。
正直お腹が空いていたので助かる…私ありがたくそれを受け取った。
「いただきます」
「はいどうぞ」
パクっと食べるとふわふわのパンにシャキシャキのサラダとしょっぱいお肉が混ざりあって口に広がる。
美味しさに夢中であっという間にたいらげてしまった。
「もうひとつどうぞ」
すかさずもうひとつ渡される。
「あれ?アルバート様は食べてますか?」
「僕はシルビアの食べてる姿で胸がいっぱいだよ」
「駄目です!アルバート様もしっかりと食べてください。はい、あーん」
私は食べてないと聞いて自分の分をアルバート様に渡した。
アルバート様は驚いたあとサンドイッチを見つめて綺麗な口でサンドイッチにかぶりついた。
間近で食べる姿も美しく思わず見とれるとふと目が合った。
ニコッと目が細まりモグモグと口を動かしたあと「美味しい」と一言。
全ての動作が見とれるほど綺麗だった。
「今まで食べた料理の中で一番美味しいよ」
「よ、よかったです…」
なんか直視出来ずに私は目を逸らした。
「今度は僕が食べされてあげるね」
アルバート様は私の持っていたサンドイッチを受け取りアーンと私に向けてくる。
「わ、私は大丈夫です!それはアルバート様が食べてください」
私は違うサンドイッチを貰って慌てて口に入れた。
「兄妹なんだから恥ずかしがらなくていいのに」
隣で余裕そうに笑うアルバート様に私は頭がグラグラする。
兄妹ってこんなに仲がいいんだっけ?
私ずっと一人っ子だからようわかんないよー!
なんだか距離が近い気がするアルバート様に翻弄されっぱなしだった。
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