第9話 夜は始まったばかり

白河さんを見つけて「送っていくよ」といい、隣を歩く。


「先輩達にまた助けられちゃいましたね。」


「ああ、美優が記憶障害を起こすとは思わなかった。」


「あいつは興味が無くなると記憶を消去できる機能があるみたいだ。」


「違いますよ。柏野先輩はわざとやっているんですよ。」


(……いや。違うよ。……あれは入れ替わりを本気で信じているよ。)


その柏野先輩に対する過剰補整をどうにかしなよ。


「先輩のお母様、ステキな人ね。あんなウソを信じて子供達に合わせてくれるんだから…。」


「母さんにちゃんと伝えておく。」


「あと母さんが白河さんの中身はうちの息子なんだから、困った事があればいつでも家に来なさいって言ってたぞ。」


「本当に嬉しい…ありがとう。」今日1番の彼女の笑顔を見れた。


おそらく心が男性という本当の自分を大人(母親)に認められたのが嬉しかったんだろう。


「ここで大丈夫です。今日は本当にありがとうございました。」


この先は彼女の家庭事情の問題なのだろう。あまり深追いはしないでおこう。

「おやすみなさい、先輩。」


「おやすみ、純くん」


俺もきみを後輩の男の子として接する事にするよ。


「名前を君付けで呼んでくれた……ありがとうございます………先輩。」

そう呟いて家に入っていく。



一難去った。

ところが、彼の夜はまだ長いのだ。


帰り道にこれまた聞いた事のある声に呼び止められた。


「こんばんは、朝倉くん。」


「ああ、桜庭さん、こんばんは。」


今日の朝に会った、美優の親友の(桜庭 静香)さんだ。


「今日は大変だったらしいわね。」


「何か聞いたんですか?」


美優さんが突然電話してきて「悟くんが男の子と女の子の二人になっちゃった~。助けてよ~。」って


う~ん。半分くらい正解だけど、説明不足過ぎてどこから誤解を解けば…。


「それでね、私なりに調べてみたの聞いてもらえる?」


「精神解離状態になってしまうのは、その対象者がある出来事(トラウマ)に悩んでいて記憶が飛び飛びになったり、自分の都合のよい事実に変更してしまうらしいの。」


「なにか心当たり無いかしら?」


俺には心当たりは無いが、

(あなたの親友の美優さんが今、その状態だよ。気づいてあげて~。)


「どうしたの?心当たりある顔しているみたいだけど…。」


「……私に言いづらい問題もあるだろうから、無理に話さなくてもいいわよ。ただ、周りの人達は全員あなたの味方のはず、だから溜め込まずに何でも話すべきだと私は思うの………どうかしら?」


うわ、この子すごく真面目。少ない情報から物事を捉えて的確に指摘してくるし、本当にいい子なんだろう…。


どうしてこんなにこじれて来たのか………めんどくさい。


よし!そろそろ帰ろう。

「桜庭さん…今日は相談に乗ってくれてありがとう。もう落ち着いたから。」


「本当に?家出とかしそうで心配だから家まで送っていくわ。」


僕っ子後輩を家まで送っていった俺は、優等生に家まで送ってもらうことになった。

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