第5話 朝に初めて会った女子を昼にお持ち帰り

しばらく歩いているとふと気づいた事が…。


歩幅のちょうど3歩後ろに付いてくるのだ。こちらがわざと駆け足したり、遅く歩いたりしても、ちょうど3歩後ろの定位置を守ってくるのだ。


何?これ?昔の良き妻の嗜み歩きというやつ?

お前は俺の中で変わり身ランキング1位だ。僕っ子入れ替わり騒動からの良妻ポジショニングだもん。


「あの~白河さん」と話しかけると「純とお呼びください」と返された。


いつの間に結婚しましたか?俺たちは?


流されてはダメだ。ここは用件を素直に伝えるとしよう。


「すみませんが昼と夕食の食材を買いたいのでスーパーマーケットによってもよろしいでしょうか?」緊張でつい敬語が混じってしまう。


「構いませんよ。邪魔にならない位置で何処へでも付いていきます。」と返してくる。

お前の本当の歳はいくつだ。と禁断の質問をしたくなる。


結局、買い物の最中も3歩後ろを歩くスタイルを崩さず、だからといって何もしない訳ではなく、野菜の食材選びから細やかな知識まで相手の功を立てつつアドバイスしてくる良妻賢母ぶりを披露されてこっちの疲労度は溜まる一方だ。


買い物を済ませて家の玄関前まで着いた。


「あの~白河さんここが俺の家です。」


「私の事は純とお呼びください。この家が先輩の家?………こんなに早く来れるなんて嬉しい。」


「え~っと…我々は今日の朝に初めて会ったんだよね?」


「はい、その通りです。運命の出逢いでした。」

俺は間違いなく選択肢を間違えた。外堀を埋められる。


よし!勇気を持って飛び込もうではないか。新しい扉の我が家に!


ちょうど昼過ぎになり、昼食を作らなければならない。


「ご飯を作るから少し待っていて。少し食べていくだろ?15分ほど時間をくれるか?」と言いつつ


来客用のコーヒーを白河さんに差し出してくつろいでもらった。

料理を作りながら、彼女を観察してみる…。

彼女は目をキラキラさせながら周りを見渡していた。


今日の昼ごはんは時間が無くて和食の簡素な物にした。


二人でテーブルに付いたのだが、「私はこちらで」と端の席を指定された。


彼女に少し気になる事を尋ねてみた。


「白河さん質問してもいい?」と俺がいうと。


「はい、答えられる限りの範囲で良ければどうぞ。」と微笑みながら返してきた。

「白河さんのさっきの流れなら、料理は自分が作りますって言い出しそうだったのになぜなのかな?」

「それと食事テーブルの席の指定はなぜ?」


「まずは一つ目の質問ですが、私は来客者だからです。来客者の私が先輩のお母様の許しもなくキッチンに入るのはマナー違反ですから…。あと、テーブルのあちらから上座の席にあたるので末席のこちらに座る事に致しました。」


「本当は家に入るのも主の許可は必要なはずですが、私の中では先輩が主の代理の方ですから、お父様には後日あいさつすれば問題ないと思いました。」


「先輩、ご理解いただけたでしょうか?」


「あ、うん分かったよ、丁寧な説明をしてくれてありがとう。」

「いえ」


お父様とお母様にするその挨拶とは結婚挨拶なの?

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