第1章 私が女神様の配達人になるまで…1

 私という人間は、良く言えば『真面目』。悪く言えば『融通が効かない』。そんな人間だったのではないかと思われる。

 本人的にぶっちゃけて晒せば、まあ家族には恵まれてなかったかもしれない。

 血の繋がった両親との仲も悪くは無いが、良いわけでもなく。かといって、普通とも微妙に言えないような、そんな奇妙な関係で。

 そこから逃げ出して結婚したものの。子供が出来てからの生活は、子供と我が子の世話で、ストレスの溜まる日々。

 そんな日々は、『離婚』というモノで解消され、子供が巣立ってしまうと、何と言うか不思議な感覚に満たされた。


 おひとり時間。ゲット。


 これにより、私は昔から抑えていた欲が爆発した。

 通販によって買いやすい同人誌。世に溢れる多種多様な小説にマンガ。

 ネットに至っては、自分好みで色んな創作物が読めるのである。

 そりゃもう、買い漁って、読み漁った。

 しかし、いかなる事にもという物は必要なのである。


 なれど、五十路間近のこの体。若い頃のツケであちこちポンコツ。

 普通にパートに出ても、人間関係で更に身体を追いつめることとなり、友人の紹介で始めたメール便。

 これがまた私という人間にはピッタリの職だった。


 決められた期限内に決められた時間帯で、選んだ地域内で配達すればよいのである。


 自分のミスは自分だけのモノ。他人の責任を背負うことは無い。


 私はご機嫌でこの仕事を続けた。

 愛用のママチャリを違反にならない程度に改造カスタムし、時には喜び、時には静かに怒りを堪え、配達の日々を過ごしていた。


 大量のカタログを頼みながらも、明らかに容量の足りないポスト。

 個人情報漏洩防止とかいう思い違いからの、前の住人の表札そのままのお宅とか。

 ポスト探してたら、不審者として通報されててお巡りさんに職質されたり、自分の前に入れられたチラシを入れるなと棒を持って追っかけられたり……。


 心が折れそうになることもありました。実際、数日折れたこともある。


 でもまあ。目の前のに比べたら些細な事です。


 目の前。

 ピカピカの一年生が、車がギリギリ離合できる道いっぱいに、で歩いてます。


 通 れ ん わ !


 ベルをジャカジャカ鳴らしても、こちらをチラ見するくせに、脇に寄ろうともしません。


 おのれ、ガキ共。お前らの学校と親に言いつけたるわ!


 突っ込む訳にもいかず、ママチャリから降りて、押しながらガキ共に声をかけてみます。


「ごめんねー。道いっぱいに歩いてるとオバチャン通れないから、端に避けてくれるかなぁ?」


 心の怒りは心の奥に、なるべく穏やかに声をかけます。


「ゴメンなさーい」


 数人はそう言って、ちゃんと端に避けました。


「ババア、うっさいねぇ…」

「ババアだから、ぼくたち避けて通れないんだよォ‪w」


 残り二人はクスクス笑って、暴言吐きやがりました。


 こいつら、学校チクッて、親共々泣かしたろか…。


 などと、ちょっとーホントにちょっとですよ?ー考えましたが、交差点のすぐ側です。しかもミラーがない。

 車が曲がってきたらすぐに当たるぐらいの場所。

 こんな生意気なガキ共を跳ねて、罪に問われるなど私なら真っ平ごめんです!


 なので、そんな生意気なガキ共を他の子達の方へ向かわせながら、自転車に乗って追い越そうとした瞬間、車が曲がってきたのが分かりました。


 ドガッ。ガッシャーン。


 という音と共に、自分の全身に凄まじい痛みが走り、遠ざかる意識の中に無数の子供達の悲鳴が聞こえたような気がしました。


 それが最期の記憶です。



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