第2話 サヨナラは突然に


 暑い……。

今年は猛暑だと聞いていたが、暑すぎる。 

いつもはヒンヤリとして気持ちが良い縁側も、焼けた鉄板の様に熱々だ。

 だから最近のオレは、冷房の効いている婆さんの部屋で過ごす事にしている。



 だが、今日は婆さんも何だか様子が可笑しい気がする。

 朝からフラフラと壁伝いに歩けば、缶詰だけ出して部屋で寝ているのだ。

 もうとっくに昼飯の時間も過ぎているぞ?


 オレは布団に潜り込み、婆さんの頬を舐めてみるが反応をしない。


 熱中症ってのになったのか?

だから気を付けろって言ったのに……仕方ねぇ、待ってろ。今、人を呼んできてやる。



 オレは急いで家を飛び出し、近所の猫仲間に集合を掛け説明をした。

「おい、みんな聞いてくれ。オレの婆さんが朝から様子可笑しいんだっ」

「なんだって?お前の所は婆さん1人だろ?」

「私達も誰か呼べないか試してみるわ」


 集まった5匹の猫はそれぞれ、飼い主へのアピールをしてくれると約束し解散する。


 オレは仲間達が人を呼んでくれるのを、玄関先でじっと待つ事にしたが、本当に人間がオレらの行動を読み取って、この場所に来てくれるのか不安に駆られる。


 暫く待っていると一人の人間が、メス猫を追いかけ走ってきた。

「ダン!!パパ連れて来たよ!」

「よし、こっちの部屋だ」

 オレが部屋へ案内しようとするも、人間がは玄関から中へ入ろうとしない。


「にゃー!」

 メス猫が人間のズボンの裾を引っ張り、漸くの思いで部屋へと入れると、人間はやっと状況を理解したらしい。

「お婆さん!大丈夫!?」

 婆さんを揺すり起こすも反応が無いのを見た人間は、小さな機械を取り出し誰かと話し始める。




 その後、婆さんは大きな車で何処かに運ばれ、二度と帰ってくる事は無かった……。





 ーーーーーーーーーーーー


 アレから何日経っただろうか?

 婆さんと住んだ家は壊され、猛暑の中、今オレは野良猫となっている。


 食事は婆さんを見つけてくれた人間が、偶に魚と水をくれるが、オレはやっぱり婆さんの作った猫飯の方が好きだった。


 雨の日は他所の家の軒下で雨宿りし、陽射しの暑い日は木陰で昼寝をする。

 だが、何処にも婆さんは現れなかった。





 それでもオレは待った。

何ヶ月も待ち続け、身体の毛は泥でパサつき、丸々とした身体も細く変わり…

 …季節は冬へと変わっていた


 最近では、オレは何を待っていたのかも思い出せなくなっていた。




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