第223話 アイスの懺悔
アイスと再会した後、僕たちは一旦ギルドを離れて近くの食堂に入った。腹ごしらえをするのに丁度いい時間だったしアイスも食べてないって言っていたからね。
それになんとなくギルドから離れた方が落ち着いて話せるかなと思ったんだ。
通されたテーブルは円状でテーブルを囲むようにして僕たちは座っていた。そしてウィン姉が腕組みして何故か不機嫌そうなんだけど……アイスもどこか沈んだ表情だし、食事しに来たのに何か空気が重たいよ!
「あ、アイス久しぶりだよね。元気していた?」
「スピィ~」
「…………」
席についてからアイスに話しかけてみたけど返事はなかった。ただ以前みたいに嫌われているわけではなさそうというか、アイスは終始うつむき加減で何か元気がないんだよね。
「貴様! 愛弟が食事に誘いあまつさえ話しかけているというのにだんまりとはどういうつもりだ!」
「ちょ! ウィン落ち着いて!」
「スピィスピィ~!」
テーブルをバンっと叩きつけ勢いよく立ち上がって詰め寄ろうとするウィン姉をエクレアが止めた。スイムも慌てていてエクレアが、どうどう、と必死に宥めているよ。エクレアに感謝だね!
「でもアイス。わざわざギルドに来たってことは何か話したいことがあったんだよね? それなら黙っていたらわからないよ。話してくれないかな?」
アイスに向かってエクレアが優しく語りかける。こういう時、僕はどう接していいかわからなくて情けなく思うけど、やっぱり女の子同士の方が話しやすいのかもしれないね。
「――ごめんな、さい……」
その直後アイスの口から発せられたのは謝罪の言葉だった。更に驚いたのはアイスの目からポロポロと涙が零れ落ちてきたから――その涙は落ちている途中で凍てつきテーブルや床に当たると弾け飛んだ。
「え? アイス?」
「ごめんなさい。アイ、ずっと謝りたかったのに……ネロに酷いことしたのに……なにもできなくて……ごめんなさい……」
「アイス、落ち着いて。もう大丈夫だから」
「でも、アイ、あの時も逃げ出した。きっと良くないことが起きるってわかっていたのに、アイ、アイ……」
泣きじゃくるアイスを見てエクレアがアイスの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫だよアイス。ネロはアイスの気持ちもきっとわかってくれるよ。アイスもきっと辛かったんだよね」
そう言ってアイスの頭を撫でるエクレア。それを見ていたウィン姉は何か考えている様子だった。
「……やれやれ。その様子だとあの馬鹿どもはブリザール家にもちょっかいをかけていたようだな」
「え?」
ウィン姉の言葉に思わず声が漏れたよ。ウィン姉はアイスとは初めて会った筈だけど――
「ウィン姉はアイスのことを知っていたの?」
「この娘の顔を見たのは初めてだ。だがさっきの涙、ブリザール家は氷の力が強すぎて涙さえも自然と凍ると聞いていたからな。娘も一人いると聞いていたから何となく察しはついたのだ」
そうだったんだ。僕はアイスの家については詳しくなかったんだけど流石はウィン姉だね。
それはそれとして――
「――僕もアイスに対して怒ってるなんてことはないよ。それに君は本当は心優しい子だって思ってる。だから教えて欲しいんだ。あの時フレアに何かを言われて君は明らかに動揺していた。一体アクシス家とアイスの間に何があるの?」
僕が問いかけるとアイスの目が一瞬泳いだ。やはり話したくないことなんだろうか?
「――それはアイ、というより家の問題。ブリザール家はアクシス家から支援を受けているの……最初は魔法の研究に役立つ為という話で互いの家にとって有効な物だった筈なんだけど……」
だけどアイスは振り絞るように重たい口を開いてくれた。話し終えたアイスの声のトーンが落ちる。それで理解した。きっとあいつらはブリザール家へ支援していることをいいことに自分たちにとって都合のいいように利用したんだ。
アイスもそれを理由に僕の命を狙ったんだね。だけどアイスは本質的にはそんなことで人を殺せる子じゃなかった。
だからこんな辛そうな顔をしているんだろう。アイスに対する怒りなんて全くないけど、あいつらアクシス家に対する怒りは膨れるばかりだ。そんな奴らの血を引いていることすら嫌になってくる。
「なるほどな。話はわかったがお前も情けない奴だ」
するとウィン姉がアイスをビシッと指さして言い放った。
「ウィン姉、アイスにも理由があったのだし」
「その誰にでも優しくなれる姿勢は本当に愛おしく思うぞ愛弟よ! だが、言わせてもらおう。幾ら負い目があるとは言えフレア如きにいいように扱われるとは情けない!」
そこまでいってドンッとウィン姉がテーブルを叩くとテーブルがグシャッ! と破壊された――
「ちょ、ウィン姉! 力入れすぎ!」
「ムッ、しまった」
「ちょ! お客さん何してるんですか! あ~テーブルがメチャクチャだよ!」
「えい! 受け取れい!」
店長らしき人が怒り心頭でやってきたけど、またウィン姉が札束を取り出したよ!
「え? こんなにくれるの? ヒャッホ~イ! 今すぐ代わりのテーブルをご用意いたしますよ!」
「スピィ~~?」
金に釣られて去っていく店長をスイムが不思議そうに眺めていた。うん、スイムはそのまま純粋なままでいてね――
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