第221話 帰還する時

 ウィン姉が言った。ガイを救うためにもアクシス領に戻ろうと。そうか……確かにガイを助けるならそれが一番手っ取り早いかもしれない。


 でもまさか、また戻る日が来るなんて思ってなかった。元々僕が暮らしていた場所だけど、正直あまりいい思い出がない。


 こんなことがなければ二度と戻ろうとは思わなかったと思うけど――


「確かにそれが一番なのかもね。問題はアクシス領に入っても警戒されている可能性はあると思うんだ」

「確かにそうだよね。ウィン何か手はあるのですか?」

 

 エクレアがウィンに聞いた。アクシス家に戻ろうと提案したのがウィン姉だから何か作戦があると思ったのかも。


「そんなものない! 行ってから考えればいいのだ!」

「えぇ!」

「スピィ!」


 ウィンの答えにエクレアとスイムが驚いているよ。そういえばウィン姉はわりと直感で突き進むタイプだったね……。


「えっと、それで大丈夫なのかな」

 

 エクレアが心配そうにしていた。気持ちはわかるよ。


「確かに正直好きではないけどあの人たちは油断ならないからね」


 性格は最悪だけど僕の家族だった人たちの魔法の才能に関しては本物だ。魔法の腕前は研鑽を重ねているだけあって、正直相手にするには厄介な連中だと思う。


 勿論そのアクシス家でも実力に定評のあるウィン姉がこちらについてくれているのは心強いんだけどね。


「……全く騒がしい連中だな」


 僕たちが今後について話していると部屋に第三者の声が入り込んできた。見るとそこに立っていたのはレイル・カートス……殺されたロイドの兄だった。


「ムッ、何だ貴様は? さてはまさか貴様も愛しの弟の操を狙っているのか!」

「そんなわけあるか!」


 ウィン姉の発言にレイルが目を剥いて否定したよ。ウィン姉には一体僕がどんな風に見えているんだろうか?


「ウィン、あのね」


 するとエクレアがウィン姉に説明をしてくれた。レイルについて、そしてロイドについて掻い摘んで話してくれたようだよ。


「それにしてもどうしてここに?」

「――フンッ。脳内お花畑の連中がどんな顔しているか見てやろうと思ってな」

「ちょ、何よその言い方!」

「スピィ!」


 レイルの吐いた言葉にエクレアとスイムが怒りを顕にした。僕も少しムッとしたけど、なんだろう。どこか前と雰囲気が変わってる気がする。


「何だ貴様は? そんなくだらんことを言う為だけにわざわざこんな場所まで足を運んだのか? だったらとっとと帰れ! 私は大事な弟を愛でるのに忙しいのだ!」

「いやいや! ガイを助けるんだよね!」


 ウィン姉の発言に思わず突っ込んじゃったよ!


「ガイを助けるだと? 何だ貴様らは罪人の肩を持つのか俺の弟を殺したあんな男を」


 レイルが顔を歪めて言った。だけどそれについては言いたいこともある。


「……ガイのやったことは必ずしも許されることではないかもしれない。でも一つだけ確かなのはロイドをやったのはガイじゃないってことだ。前にも話した通りロイドの命を奪ったのは別にいるんだから」


 レイルに向かって僕はハッキリと伝えた。そのことだけは間違いのない事実だからだ。


「――貴様の言う事など当てになるものか。だがそれが万が一にも事実ならば愉快ではない話だな。しかしどちらにしても無駄なことだ。あのガイは処刑される三日後にな」

 

 レイルがそう言って踵を返した。ガイが三日後に処刑される……そんな早すぎる! でも今から行けば――あれ?


「レイル。もしかしてその事を教えに来てくれたの?」

「……真犯人が別にいるなら関係ない奴がいいように利用されて処刑されるのが癪に障るだけだ。とにかくこれで借りは返したぞ」

 

 そう言ってレイルが部屋を出ていった。借りってまさかゴブリンに襲われていた時のことだろうか。

 

「あの、レイルありがとうね!」


 するとエクレアがレイルに向けて御礼を伝えていた。レイルがチラッと振り返る。


「いずれ貴様との決着もつけてやる。次は俺が勝つからな。首を洗って待ってろ」

「――うん。望むところよ!」

 

 レイルが挑発的な笑みを浮かべて帰っていった。そんなレイルを見ながらエクレアは笑みを浮かべていたよ。



「案外悪い人じゃなかったのかもね」

「うん。そうだね。でもこれでもう気持ちは決まったよ」

「うむ。そうであるな。我が愛しの弟よ。これからたっぷりと愛でて愛でて――」

「いやいや違うよ! ガイを助けに行くの!」


 なぜか鼻血を出してるウィン姉に向けて僕は考えを伝えた。そう、もうぼやぼやしていられない。ガイを助けるためにアクシス領にむかうんだ!


作者より

本作の書籍版2巻が今月3月15日に発売となります。どうぞ宜しくお願い致します。

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