第220話 アクシス家とマイト家

「マイト家はアクシス家の援助を受けて成り立っている。つまり実質アクシス家に隷属しているとも言えるようなのだ」

 

 ウィン姉が僕の疑問に答えてくれた。両家の間でそんな主従関係があったなんて僕は全く知らなかったよ。


 でも、それならかつてのガイがどこかオドオドしていたのもわかる気がする。


「でも、それだと逆におかしいような……だって殺されたのはアクシス家の執事ですよね?」

「スピィ?」


 エクレアが疑問を口にする。それはたしかにそうだ。今の話だとマイト家はアクシス家に逆らえない立場だったということになる。

 

 だとしたら何故アクシス家に刃向かうような真似をしたのだろうか?


「そこなんだがな。ガイはもしかしたらアクシス家のことよりも別な誰かを守ろうとしていたのかもしれない」

「別な、誰か?」

「そうだ。ガイが守りたかった。だからこそ敢えて追放するような遠回しな手に出たとも考えられるかもしれない。あくまで私の予想でしか無いがな」

 

 ウィン姉の言葉で僕もハッとした。ガイが守ろうとしたのはまさか、僕? でもどうして……いや、よく考えてみたらハイルトンは僕を始末しに来たと言っていた。


 そう、何故かはわからないけどアクシス家は僕のことを目障りだと思っていたのかもしれない。だとしたらあのタイミングでもしハイルトンが家に戻っていたら……。


「そんな、でも確かにこれなら繋がってしまう。でもどうして、ガイはそんなこと!」

「ネロ……」

「スピィ~……」


 思わず声を張り上げてしまった。だけどそうだとしたら僕はますますガイを放ってなんておけない。


「ガイの真意は私にもわからない。だがアクシス家の連中が本来ネロをターゲットにしていたのはたしかだろう。フフッ、私の大事な弟に危害を加えようとは一応は家族だからと遠慮していたがどうやらその必要はなくなったようだな」


 な、何か僕よりもウィン姉の方が怒っているような……。


「そしてネロ――これまですまなかったな。こんなことになるまで放っておいてしまって」


 そう言ってウィン姉が僕を優しく包容してきた。ちょっと照れるけど、ウィン姉の気持ちがよくわかる。


「仕方ないよ。きっとウィン姉にも大事な仕事があったんだよね?」

「……うむ。ネロはもう相手したようだが黒の紋章持ちを調査する任務を受けていてな。落ち着くまで顔を出すわけにはいかなかったのだ」


 ウィン姉がそう説明してくれた。黒い紋章持ち――確かに彼らの力はとんでもなかった。よく考えてみたら黒い紋章持ちは他にもいるわけだし冒険者ギルドがその存在を見逃すわけもないんだ。

 

 だから独自に調査を進めてる。その中にウィン姉が選ばれてもおかしくない。


「その調査は上手くいったのですか?」


 エクレアが聞きウィン姉の包容が解かれる。


「うむ。拠点は幾つか潰したぞ。しかし、肝心の紋章持ちはあと一歩のところで取り逃してしまった!」


 ウィン姉が悔しそうに言った。まさかウィン姉が捕まえられないなんて。


「そんなに手強かったんだね」

「……手強いと言うか脆かったのだ」

「え? 脆い?」

「うむ。私がちょっと暴れただけで床が抜けるとは。全く拠点を構えるならもっと頑丈にしておけばよいのだ!」


 話を聞いたエクレアが目を点にさせていた。スイムも似たような感情に思える。


「えっと、それは……」

「とにかくだ! 今は私の事よりもガイだろう。ネロも救いたいのだろう。それであれば行動に移すときだ!」

「行動に。そうだね。でもどうしようか」

「そんなの決まってる不本意だが久しぶりに帰還するのだアクシス領に!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る