第218話 私はこれからお前を!

「えっとそれでどうしてウィン姉が?」

「うむ。話は聞かせてもらったぞ」

「えっと……」


 一応僕から質問したつもりだったんだけど、微妙に話が噛み合ってない気がするよ。


「その、聞いたと言うと?」

「うむ。それはだな――」

「おいお前ら! 一体なにを騒いでんだよ! 他にも泊まってる客はいるんだぞ!」


 ウィン姉が質問に答えようとしたタイミングで他の宿泊客からクレームが入ったよ! よく考えたら結構な騒ぎになってる!


「ご、ごめんなさい。姉弟の久しぶりの再会で、それでなんというか」


 文句を言ってきたお客さんにエクレアが対応しているよ! いやエクレアの責任でもないし何か申し訳ないよ!


「エクレアが謝ることではない。騒いだのは私なのだからな!」

「しっかり自覚あった~~~~!」

「スピィ~~!」


 僕とスイムの声が揃ったよ。いや、確かに原因を作ったのはウィン姉なんだけどね。


「あんたか! こんな騒ぎを起こしたのは。たく少しは!」

「え~いうるさい! 私は今忙しいのだ! 迷惑料だとっておくがいい!」

「え? うひょ~~~~! こんなにぃいいいい!」


 ウィン姉が文句を言ってきた宿泊客に札束を投げ渡していた。あれどうみても百万マリンはあるよね!?


「これで文句はないな!」

「それはもう! どうぞごゆっくり~~~~!」


 文句を言ってきた宿泊客がホクホク顔で去っていったよ! えっとそれでいいの?


「おいあんた!」

「さっきからさわがしいのよ!」

「え~い! これでどうだ!」

「え! こんなに!」

「いやぁもうどうぞどうぞ幾らでも騒いでください!」

「ふん。これでよし!」

「いやよくないですよね!」


 エクレアがすごく驚いていたよ! 文句を言いに来た宿泊客に札束ポンポン投げつけてるからそれは驚くよ!


「ちょっとあんた困るよ。勝手にドア壊しちゃって!」

「修理費だとっておけ!」

「え? うぉぉおおぉ! こんなにぃいい!? やった! これで宿が立て直せる! よっしゃごゆっくり~~~~~~!」


 文句を言いに来た宿の主人でさえスキップしながら去っていったよ! 何か札束十束ぐらい渡してたよね!


「ちょ、ちょっと待って。頭が追いつかないんだけど、そんなポンポンお金渡して大丈夫なんですか?」

「金で解決できることならその方が早い!」

「潔すぎ!?」

「スピィ~~~~!?」


 エクレアがめっちゃびっくりしてるけど僕も同じ気持ちだよ! ウィン姉は確かにAランク冒険者だしお金もたくさんあるんだろうけど、だからってそんな簡単に使っちゃっていいの?


「私は弟の為なら金など惜しくない!」

「いい切ったぁああぁああ!」


 思わず声が出たよ。でもよく考えたらウィン姉は元々豪快な人だったよ。でもこれはいくらなんでも豪快すぎる気がするよ!


「さて、ネロ。私の弟よ」

「あ、うん」


 ウィン姉は突然真面目な顔になって僕を呼んだ。僕は戸惑いながらもそれに答えた。


「さっきのことだが、私が聞いたのは無論。ガイのことだ」

「あ――」


 ウィン姉の話を聞いてガイが連れて行かれた時の光景がフラッシュバックした。何も出来なかった無力な自分が本当に情けない。


「……ごめんそのことはあまり考えたくないんだ」

「――つらいからか? もしかしてネロは自分のせいだと勝手に思い込んで自らを責めているのではないか?」

「そ、それは――」


 言われて僕の視線が自然と下を向いた。ウィン姉の言うとおりだよ。だから僕の気持ちは沈んだままだ。


「ネロ――いいかネロ! 私はこれからお前を撫でる!」

「えぇええぇええ!」


 何かウィン姉が急にそんな宣言をしてきた。かと思えば本当に撫でてきた!


「はぁあぁああネロぉ、私の可愛い弟ぉぉおもう最高!」


 ウィン姉が僕を撫でる撫でる撫で、い、いた!? 痛い痛い痛い痛い!


「ま、まってウィン姉、ちょ、痛い」

「最高だぞネロぉおぉおおぉお!」

「ひぃいぃい!」


 ウィン姉の言う撫でるはもうその意気を超えて関節まで決めてきてるよ! 


「待って待って! そんなに強くしちゃネロが壊れちゃうよ!」

「スピィ! スピィ!」

「むぅしまった! つい愛が深くなってな。だが――スッキリしたのではないか?」

「え?」


 ウィン姉が離れると、確かに痛いと思った体がどことなくスッキリしていた。それと同時に何だか思考もクリアになってきた気がする。


「……もしかしてウィン姉、僕のために?」

「こんなところで黙っていたら鬱憤した気持ちが溜まるばかりだ。体もなまり考えられるものも考えられないからな。先ずは体から解す。そうすれば自然と頭も回るだろう」


 そう言ってウィン姉が優しく微笑んだ。その顔を見ているとなんとなくホッとなる自分がいたんだ――

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