第214話 姉
「ごめん……まだちょっと調子が悪くて」
「ネロ……そう、か。わかったゆっくり休んでね」
「スピィ……」
ネロの答えにエクレアとスイムは寂しそうな顔を見せた。ネロはガイの件が合った後は、ずっと宿に引きこもってしまっていた。
エクレアはそんなネロが心配で足繁く宿に通ったがネロの答えはいつも一緒であり、今日もまた宿から出てトボトボと引き返すことになったわけだが――
「――今日もネロくん宿に籠もってるの?」
「……はい」
「スピィ……」
ネロから良い返事を聞くことが出来ずエクレアはスイムと一緒に冒険者ギルドにやってきていた。窓口で対応してくれたのはフルールだった。
「参ったわね……Cランク試験が一時中止になったのも驚きだけど、勇者パーティーもこんなことになってネロくんまで元気をなくしちゃうなんて」
ため息混じりにフルールが言った。彼女が言うように結局Cランク昇格試験は中止となった。予定外のゴブリンの件は勿論だが勇者パーティーが殺人事件に関与していたことが大事となった形である。
結局ネロたちは一旦ウォルトの町に戻ってきたのだが、ネロのショックは大きく試験中止から数日が過ぎたが未だ立ち直っていない。
「あの、パパの様子はどうですか?」
「忙しない様子よ。【栄光の軌跡】はここを中心に活動していたからね。これまでギルドでどんな働きをしていたのかとか色々まとめないといけないことが多いみたいだし、その上でマスターはマスターでガイたちのことを独自に調査したりもしているからね」
エクレアの質問にフルールが答えた。どうやらギルドマスターはガイたちが本当に犯人なのか必死に調べているようだ。
「勿論勇者パーティーのことも心配だけど今はネロくんよね。このままずっと宿に籠もっていても良くないし、すぐに依頼を受けて欲しいとは言わないけど外には出て欲しいところよね……」
「はい。私もそれが心配だし、ネロがこのままだとスイムも元気が出ないみたいで」
「スピィ……」
エクレアがスイムの頭を優しく撫でた。いつもは元気にしているスイムも今はしょんぼりしている。
スイムも戻ってすぐはネロの側にいたのだが、ネロが部屋から出ようとせず結局ネロからエクレアに暫く預かっていて欲しいとまで言われたのである。
それもスイムからすればショックだったのかもしれない。勿論スイムはエクレアにも懐いているがあくまでスイムにとって主はネロなのである。
にも関わらずエクレアに託されたことでスイムはショックを隠せない。
「スイムちゃんも元気ないんだ――もう! ネロくんってば大事な友だちにまで心配掛けて! こうなったら今から私も行って連れ出してあげるわ。そのままお昼でも食べに行けば少しは元気を取り戻すでしょう!」
「う、う~ん……でも私も食事に誘ってみたりしたんだけど断られちゃったんだよね」
何かのスイッチが入ったようにフルールがやる気を見せるがエクレアは苦笑気味に告げた。
「でもやっぱりこのままじゃ駄目よ。大体食事だってまともに摂ってるかわからないわけだし」
「それは、たしかに心配なんですよね」
「うん。だから」
「頼もう~~~~~~~~!」
フルールとエクレアが話しているとギルドのドアが勢いよく開かれ、一人の女性がズカズカとギルド内に入ってきた。
その突然の来訪者にギルド内が静まり返り、注目が入ってきた人物に集まった。勿論フルールとエクレアも同じであり彼女に視線が移る。
軽鎧姿で腰には長剣。長身の美女であり腰まである青い髪を靡かせカウンターまで近づいてきた。
「このギルドにネロという冒険者がいるはずだ! 間違いないか!」
そしてギルドに響き渡る大声で彼女がネロの名前を言った。それを耳にしエクレアが目をパチクリさせる。
「うそ、あの美人さんネロの知り合いなの?」
「ムッ!?」
思わずエクレアが呟くと、美女の鋭い視線がエクレアを射抜いた。
「今確かにネロと言ったか!」
「ひゃっ!」
美女が瞬時にしてエクレアの目の前までやってきて問い詰めてきた。エクレアも思わず驚いてしまう。
「ちょ、貴方こそ突然何? ネロの知り合いなの?」
「うん? 何だお前もネロのことを知ってるのか」
「お前って、私は受付嬢のフルール。そっちの子は冒険者のエクレアとスライムのスイムよ」
「む、そうか。これは失礼したな。私はウィンリィだ」
「ウィンリィさんですか。それで、あの、貴方はネロのお知り合いですか?」
「お知り合いどころではない! ネロは私にとって大事な男なのだからな!」
「えぇええぇえええ!」
「スピッ!」
ウィンリィの答えにエクレアが驚愕した。スイムもここにきていつもと違う反応を見せている。
「ちょ、それってどういうこと? 貴方とネロはどんな関係なの!」
更にフルールが食い気味にウィンリィに問いかけた。こっちはかなり興味津々な様子だ。
「どんな関係だと? そんなものは決まってる! 私はネロの姉だ!」
「えぇ! て、あ、姉? ネロのお姉さんッ!?」
「スピィ~~~~!」
ウィンリィの言葉にエクレアとスイムが更に驚いた。まさかネロの姉がやってくるとは夢にも思わなかったからであろう――
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