第212話 堕ちた勇者
「へ――全く大した歓迎だぜ」
ガイが一人呟いた。その両手両足は壁に固定されていた。腕と足にはそれぞれ特殊な枷が嵌められていた。特殊な素材で作られた枷でありこれによりガイの紋章の力は封じられていた。
「一体、何日経ったんだかな」
あの日――ギルドの管理局に捉えられたガイとフィアは一旦管理局まで連行されたが、その後、ガイだけがアクシス侯爵家に引き渡される事となった。
殺害されたのがアクシス家の執事だったこともあり、アクシス家当主のギレイル・アクシスが自らの領地での刑の執行を望んだからである。
そしてガイは今、アクシス家から離れた場所の地下牢に閉じ込められた状態であった。
「チッ、こんな状況でも腹は減るのかよ――」
ガイのお腹が鳴った。ここに捉えられてからガイに与えられる食事は最低限の物でしか無い。餓死させる気はないようだが、そのギリギリのラインで時折やってきてカチコチのパンを置いていく。
最初は食べるのを拒んだガイだったが、そうすると無理やり口に押し込まれた。つまりギリギリでも生かしておくつもりはあるということだ。
そして――暫く誰も来なかった地下牢への階段から足音が響いてきた。誰かが下りてきたのだろう。
「今回は少しは早かったな――」
ガイはまた古びたパンでも持ってきたのだろうと考えた。多少カビてるぐらいはご愛嬌のパンだが、それでも腹に入れれば多少は腹が膨れる。
「――この足音、二人か?」
そこでガイが気がついた。階段から聞こえる足音が二人分だということに。食べ物を持ってくるのはいつも一人だったので違和感を覚えた。
「フンッ。まだ生きてたか出来損ないの不良品が」
そして――姿を見せたのはガイの父親であるグラン・マイトであった。だがやってきたのはそれだけではなく、背後にはローブを纏った人物もいた。フードを目深に被っている為、顔は判別出来ない。
「随分な言い草だな」
「当然だ。お前のせいで私の面目は丸つぶれなのだからな」
グランの発言にガイが、ハッ、と半笑いで返した。
「それはそれは残念だったな。俺を利用して甘い蜜でも吸おうと思ったんだろうが当てが外れたわけだ」
「――私が失敗したことがそんなに嬉しいか? この恩知らずが」
「お前に受けた恩なんざ、精々この世に産ませてもらったことぐらいだ」
ガイが悪態をつくとグランが眉を顰めた。
「勇者の紋章を授かり、あいつも死ぬ前に少しは役立ったかと思えば、結局とんだ粗悪品だったわけだ」
「テメェにだけは母さんを悪く言われたくねぇんだよ糞がッ!」
吐き捨てるようにガイが言った。ガイの母親は体が弱くガイが勇者の紋章を授かるのとほぼ同時にこの世を去っていた。ガイの性格が大きく変わり荒々しくなっていったのもこの時期からであった。
「こんな状況でもまだそんな口が聞けるか。まるで野良犬だな。とても誇り高い我がマイト家の血を引いているとは思えんぞ」
「誇り高い? 侯爵家に必死にすり寄って生きていくのが精一杯のテメェのセリフとは思えねぇな。ま、それも終わりか。勇者の俺がこうして捕まっている以上、テメェの信頼もガタ落ちだろうよ」
「信頼がガタ落ち? この私が? はは、これは笑えない冗談だ」
「全くだね父さん」
乾いた笑いを浮かべるグラン。かと思えば一緒にいたローブ姿の何者かが言葉を発した。
「――は?」
ガイはその声の主に驚き間抜けな声を出した。ガイ以外でグランを父と認識する存在に覚えがなかったからだ――
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