第209話 ネロに言い渡された罪

 フレアが僕の罪を読み上げた。ハイルトンに関しては確かに以前襲われ撃退した。だけど結局あの後ハイルトンは逃げてしまった。それからどうなったかなんて僕は知らない。


「待ってよ! ネロの罪ってネロがそんなことするわけない!」


 エクレアがフレアに食ってかかった。僕自身も当然身に覚えのないことだけど、エクレアにしても信じられないと言った様子だ。


「だが事実だ」

「おい待てよ。なんだそりゃ。一体何の証拠があってネロが犯人だと決めつけてんだ」


 ガイも口を挟んでくれた。そんなガイに向けられたフレアの目が鋭く光る。


「まさかお前がそんなことを言うとはね」

「――納得がいかねぇからそう言っただけだ」


 何だろう――フレアの口調。まるでガイのことを前から知ってるような? いやそれよりも。


「僕はそんな事していない」


 驚いたけどハッキリと言っておく必要がある。当然どれも僕には覚えのないことだ。


「ネロ。お前は以前ダンジョンでハイルトンと会っているな?」


 フレアが僕に問いかけてきた。厳しい口調だ。表情と言い、今のフレアは僕がよく知るあのフレアだ。


「向こうから一方的に襲ってきたんだ。だから抵抗した。戦ったのは事実だけどハイルトンは逃げていった」

「それは私も証明できる! ダンジョンでネロと一緒だったし私も襲われたから!」

「そう。残念だよ。ギルドマスターの娘がネロに何を吹き込まれたか知らないが犯罪に加担するとはね」

「何でそうなるのさ! エクレアは僕を助けるために一緒に戦ってくれただけだ!」

「そもそもその件はギルドにも報告してるし話は言ってるはずです!」


 エクレアも必死に反論してくれている。そしてそれは僕もわかっている。ギルドマスターのサンダースがそう言っていた。


「確かに報告は来ていたようだが全てネロに都合のいいことばかりだった。だからこそ今回の犯人に違いないと考え調査していた」

「そっちこそ自分に都合のいい解釈をしているだけじゃないか」


 流石に納得がいかなくて言い返した。フレアがこれみよがしにため息を吐き言葉を続ける。


「全く。お前は変わらないな。あまり身内の恥を晒したくはなかったが、このネロは元々は私たちアクシス家の人間。もっとも素行の悪さから我が家からは追放された身」


 素行の悪さって……水の紋章持ちなんて必要ないと一方的に追放しただけじゃないか。


「どうせ不遇の水の紋章持ちだから追放したんだろう?」


 ガイの言葉にフレアは明らかに不機嫌な顔になった。


「――ガイ。いい加減その口を閉じろ」

「で、でも事実ですよね!」

「スピィ!」


 命令口調でガイに返すフレア。そこにエクレアも追随してくれた。


「やれやれ。人を誑かすのが随分と上手くなったものだよ。だが事実は異なる。ネロは水の紋章を授かったことで劣等感を抱き、結果的に私たちに見当違いの恨みを持ち拗らせたのさ。そしてアクシス家に迷惑をかける行為を繰り返し、結果的に追放に至った」


 事実のように平気でフレアが嘘を吐いた。


「――そうか。やっぱりアイスにデタラメを吹き込んだのはお前だったんだな」

「お前? ハハッ、随分と偉そうな口を叩くようになったものだよ」


 蔑むような目でフレアが僕を見下ろしてきた。これだこの目がフレアの本質――


「お前は我が家を追放後もアクシス家の名前を語り好き勝手していた。ハイルトンはそれを咎めるためにお前の下に向かったのさ。にも関わらずネロ、お前は私怨でハイルトンを殺した」

「違う! 僕はそんなことをしていない!」

「無駄だ証拠は上がっている。そしてハイルトン殺害にもロイド殺害にもお前がやったと思われる痕跡が残されていた」


 そんな馬鹿な。証拠なんてあるわけがない。僕は実際殺してなんていないんだから。


「これは私の私見だがきっとロイドはお前が過去に行った罪について知っていたのだろう。それを指摘されお前は再び犯罪を重ねた――」


 だけどそんな僕の気持ちなど関係ないとばかりにフレアは妄言を繰り返した。


「――だが私たちが調査に来たことで焦ったお前は試験そのものを滅茶苦茶にすることで全てを有耶無耶にしようと図った。その結果がダンジョンでのゴブリン騒動だ」

 

 フレアがまるでそれが正しいかのように語っていた。だけどその全ては無茶苦茶な物だった。全くと行っていいほど辻褄が合っていない――

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