第208話 フレアの目的とネロの命運

「管理局のお偉いさんがわざわざこんなところまで何の御用で?」

「ちょシルバ! ごめんなさいその――」


 フレアに対してシルバの物言いはどことなく挑戦的に思えるね。やっぱりあまり良く思ってないのかも知れない。僕としてはその気持ちは理解出来るけど。


 ただ当然これに慌てたのはビスクだ。けれどフレアは笑顔で手を振って見せた。


「気にしてないさ。冒険者の中には私たちのような管理局の人間を好ましく思ってない者が一定数いることを理解しているからね。とにかくご苦労さま。今後については決まり次第説明するから」

「は、はい! それではこれで。ほらシルバ!」


 ビスクが急かすようにシルバの背中を押し無理やり部屋から追い出し扉を閉めた。すると今度はフレアの目がアイスに向けられる。


「アイス。君も出てもらえるかな。ここからは少々込み入った話になるのでね」

「う、で、でも」

「アイス――いいかな?」


 フレアの言葉には圧が込められていた。アイスの細い肩がビクッと震える。やっぱりアイスはこの家と関係があったんだね。


「アイスは今回の件に深く関わってるし僕たちの大事な友だちだよ。わざわざ僕のお見舞いにも来てくれたんだ。それなのにそっちの都合で出ていけなんてあんまりじゃないか」


 フレアに向けて言い返した。僕がまさかこの男に歯向かうような真似をするとは思わなかったのかアイスは驚いていた。でもこの場面で何も言わないという選択肢は僕にはない。


「ネロの言う通りです。アイスは大事な友だちだもん」

「そうね。それともアイスに聞かれたらまずいことでもあるの?」

「スピィ~!」


 エクレアとフィアは勿論スイムもフレアに言い返した。皆も納得が言ってないんだと思うよ。


「……まぁそうだね。決めるのはアイス自身だ。それで――」

 

 ふとフレアがアイスに何か耳打ちした。アイスの表情に動揺が走る。


「それでどうするのかな?」

「……ご、ごめん皆。アイも用事があったんだった。それじゃあ――」

「まってアイス!」


 そそくさと部屋をあとにしようとするアイス。そんな彼女を僕は呼び止めた。


「ネロ。アイスが本人で決めたことだ。それこそお前にどうこう言われる筋合いじゃないだろう?」

 

 だけどフレアに横槍を入れられ思わずフレアを睨みつけてしまった。こいつ一体アイスに何を。


「アイスそんな急に……」

「アイ。用事を思い出した。それだけだから――」


 フィアとエクレアもアイスを引き留めようとしていたけど用事があると言われれば無理強いも出来ないのだろう。


 結局アイスはそのまま部屋から出て言ってしまった。


「いま何かアイスに言ったよね?」


 改めてフレアに確認した。どうしても納得がいかなかった。


「彼女の意思を確認しただけさ」


 何の感情も篭っていない顔を声でフレアが答えた。こいつは僕とまともに会話する気がないのだろう。


「さて、できればネロ以外の全員が出て言ってくれると嬉しいところなんだがね」


 フレアはどうやら僕とだけ話したいようだ。アイスだけじゃなくて全員を。今更僕に一体何の用があるというのか。


「嫌です。それに私はネロとパーティーを組んでる仲間なんだから」

「それなら私たちはネロとパーティーを組んでいたことのある元仲間なんだしいていいわね」

「……ハハッ、なるほど」


 だけどエクレアとフィアはフレアの要求を飲むことはなく、二人の反応にフレアが乾いた笑みを浮かべた。


「それで勇者ガイ。君はどうするんだ?」

「俺はこいつを追放した男だからな。当然ここに残るぜ」

「それなら私はガイが失礼な真似をしないよう見張り番として残ります」

「……んだよそれ」


 セレナのセリフにガイが頭を掻いた。うーんやっぱりセレナは強いね。

 それにしてもそこまでして一体何が――僕が身構えているとフレアがふぅ、と一つ息を吐き出したよ。


「まぁ残るというならこれ以上何も言わないけど、君たちには辛い結果になるかもしれないよ。覚悟しておくことだね」


 辛い結果? 覚悟? フレアは一体何のことを言っているんだ? そう思っているとフレアが筒になった紙を取り出し広げてみせた。


「では本題だ。ネロ――お前はハイルトン殺し及びロイド殺害とCランク昇格試験の妨害行為を行った罪に問われている。よってこのままその身柄を拘束し連行する」

「は?」

「スピィィィイィイ!?」


 フレアが読み上げた書面、そこに書かれていた内容は僕にとって信じがたいものだった――

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