第204話 ネロの命運

 仮面の男からアイスを庇おうとしたことでネロは傷つき倒れた。アイスがネロの傷を見て顔を青くさせる。


「ネロ、どうして、アイはお前を凍そうとした! なのに!」

「スピィ! スピィイィィィイイイ!」


 アイスが涙ぐみスイムはネロに必死に呼びかけていた。その時だったネロの体が淡く輝き出血量が抑えられていく。


「慈愛の仮面――これで死ぬことはないだろう」

「お前ッ!」


 声に反応しアイスが立ち上がった。仮面の男がネロを見ていた。装着している仮面がいつの間にか女性の顔を模した物に変わっていた。


「しかし、貴様のせいで私は危うくあの御方の意思に背くところだった。度し難い――貴様のような小虫に、その償いは受けてもらうぞ」


 仮面の男は鋭い声で告げた後、再び仮面に手を掛けるが、ほぼ同時に何かが空気を切り裂き迫る。


 仮面の男が飛び退くと幾つもの銀の鎖が地面に突き刺さった。


「チッ、外したか」

「シルバ――」


 アイスがその名を呟いた。銀色の鎖を腕に巻き付けジャラジャラさせながらシルバが姿を見せたのだ。


 鎖の先端は短剣のような形になっていて仮面の男とゴブリンクラウザーに狙いを定めているのがわかる。


「たくトラップ踏んで妙なところに飛ばされたかと思えば、何だこの状況? 説明しろアイス」

「……あいつらに狙われてネロが――ゴブリンがダンジョンに現れたのもあいつらの仕業」

「なるほどな。トラップ踏んだのは不運だったが不幸中の幸いってやつだ。さっさとあいつらをぶっ飛ばせばいいってわけだな」


 アイスの説明を聞きシルバは納得したようだ。仮面の男とゴブリンクラウザーを明確に敵と認識したようである。


「やれやれまた小虫が増えたか」

「主よ。ここは我が」

「……問題ない。ブンブンと小うるさい羽虫にうんざりしていたところだ」


 そう言って仮面の男が顔に手を掛けるが――飛んできた矢が仮面に命中する。


「何?」

「氷魔法・冷徹の凍矢――」


 それはアイスが放った氷の矢であった。当たった箇所が凍てつく効果があるようで男の仮面は剥がせなくなってしまっている。


「主――貴様! よくも!」

「ふ、ふはッ、ふはははははははははは!」


 憤るクラウザー。一方で仮面の男は高笑いで応じた。


「何がおかしい!」


 アイスが叫んだ。自分の魔法が小馬鹿にされた用に感じたのだろう。


「――自分の愚かさに笑ったのだ。高が小虫と侮りすぎたようだな――行くぞクラウザー」

「――主の命令とあらば」

 

 クラウザーが頭を下げ仮面の男の後ろにつく。そのまま徐ろに通路の奥に向かった。


「逃がすかよ!」


 シルバが声を上げた。銀の鎖が仮面の男とクラウザーを捕らえようと伸びていく。


「クラウザー逃げ道を確保しろ」

「お任せを。ヌンッ!」


 ダンジョンの壁をクラウザーが紫水晶の腕で殴りつけた。ドンッ! という衝撃と共に天井が崩落し通路を塞いでしまった。シルバが伸ばした鎖が壁に阻まれてしまう。


「チッ! あいつら!」


 舌打ちするシルバ。シルバは壁となった岩をひと睨みした後、嘆息しアイスとネロに顔を向けた。


「ダンジョンの天井を崩すなんて無茶苦茶な奴らだぜ。しかしその傷――」


 シルバがネロの傷口を確認し呟いた。アイスも悲しそうな顔でネロを見ていた。


「こいつ、アイは凍そうとしたのにアイを庇って――どうしてこんな」

「ふ~ん。ま、こいつは見るからにそういうタイプだろうよ。自分の身より相手の身を案じるタイプって奴だ。冒険者としてみれば危ういな――とはいえだ」


 シルバが倒れているネロを雑に担ぎ上げた。アイスが目を丸くさせスイムも慌てている。


「スピィ! スピピピィ!」

「あぁ心配するな。確かに傷は深いが今すぐ戻れば助かる筈だ。幸い上の連中がゴブリンロードも含めて倒している筈だしな」

 

 シルバの行動に抗議するように体当りするスイムだったが、問題ないと彼は言い返した。


「ネロは助かる?」

 

 縋るような目でアイスが問いかけた。へぇ、とシルバが短く発し。


「変われば変わるものだな。前に見た時はお前はネロを嫌ってたように見えたがな」

「そ、それとこれは話は別だ! アイを庇ってこいつは負傷した。それで死なれたら困る。こ、こいつはアイが凍す! だから」

「あぁ、わかったわかった」


 手をヒラヒラさせて面倒くさそうにシルバが応じた。


「とにかくいくぞ。そのスライムはお前が持っておけ」

「……わかった。大丈夫きっと助かる」

「スピィ……」


 そしてアイスはスイムを抱き上げふと思い出したように上を見た。


「シャドウがいない……」

「何だ他に誰かいたのか?」


 アイスのつぶやきにシルバが反応した。改めて見るが上で縛り付けられていたシャドウの姿は既にない。


「……何でもない」

「? まぁいっか――」


 そしてアイスはネロを担いだシルバと一緒にダンジョンの出口を目指す――

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