第203話 あの御方?
「まぁいい。とにかく事情が変わった。戦いはもうここまででよい。お前の本気を引き出しかける程の力が、あの男にあるとは驚きだがな」
本気――ということはあの腕を出すまではまだ様子見程度でしかなかったということか。確かにあの紫水晶の腕に変わってから空気が変わった気がした。
「戻るぞクラウザー」
だけど仮面の男はどうやら僕たちを相手するつもりはないようだよ。
「本当に宜しいので? あやつらを放っておいて?」
「少なくともあのネロという男には利用価値があるとあの御方は考えているようだからな――」
そう言って踵を返すクラウザーと仮面の男。僕に利用価値とか随分と勝手なことばかり言っている。でもこの状況で相手するよりは――いや!
「ま、待て! 何を勝手に話を進めているのさ!」
一瞬あの二人が引き下がることに安堵した自分がいた。だけどそれじゃあ駄目なんだ。何も解決していない。
「ここにゴブリンを生み出したのもお前たちなんだろう。だったらこのまま逃がすわけにはいかないよ。目的だって知れてない!」
「勘違いするなよ」
僕が叫ぶと仮面の男が振り向き低く冷たい声で言葉を返してきた。仮面から覗き見える冷たい視線に思わず身がすくみそうだった。
「お前が今無事でいられるのはあの御方によって生かされているからだ。そうでなければとっくにこの私が始末している」
好き勝手に言ってくれて――と思ったけどこの仮面の男はハッタリで言っているわけじゃない。確かな実力を秘めていると肌で感じるよ。
「拾った命だ。精々大事にすることだな」
「氷魔法・氷輪演舞!」
仮面の男が会話を打ち切ろうとしたその時、アイスが魔法を行使した。彼女の周りに幾つもの氷の輪が生まれ回転を始める。
「お前らアイを無視して勝手に話を進めるな! ゴブリンの仲間ならお前も敵! アイが凍す!」
アイスの氷輪が動き出し仮面の男に迫る。だけど、紫色の剛腕がそれを全て受け止め握り潰した。
「我が主を狙うとは貴様――そんなに死に急ぎたいであるか?」
ゴブリンクラウザーの目が紫色に輝く。何か仕掛けてくると警戒した僕だけどそれを手で制したのは仮面の男だった。
「どうやら貴様は勘違いしているようだな。私が見逃しているのはそこの男だけだ。虫螻など相手にしても仕方ないと思っていたが、鬱陶しい小虫なら潰すまで――仮面解放」
ぞわりと背中に寒気が走った。男は仮面に手をやり何かを呟く。
「――召喚・鬼の爪」
「アイス!」
思わず僕は飛び出しアイスを突き飛ばしていた。次の瞬間には空間が裂け異形の爪が僕目掛けて振り下ろされる。
「ヴぁあぁあああぁああ!」
「スピィイィイィイイ!」
僕の声に反応したのかスイムの叫び声が聞こえた。間違いなく僕の身は爪で切り裂かれた。咄嗟にアイスを庇ったことに後悔はないけど全身に走る激痛が僕を襲う。
「ネロ!」
アイスの声が聞こえる。彼女は必死に駆け寄ってきて僕を支えようとしてくれた。あぁやっぱり根はいい子なんだね。そうでなかったら嫌ってる相手にこんな真似しないよ。でも、駄目だ。体が熱いもう意識がたも、て、な――
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