第196話 アイスの誤算
「――水にしては中々だった。だけどこれまで。宣言通りアイが凍した。アイの勝ちだ」
魔法によって氷の棺に閉じ込められたネロを認めアイスが呟いた。その瞳からは感情が消え去り氷のような冷たさが感じられる。
「ほう。これは驚いた」
「スピィ! スピィ!」
アイスを見つめながらシャドウが言葉を発した。その手に抱かれたスイムが必死に声を上げネロに呼びかけている。
氷漬けになったネロを見てパニックを起こしているようでもあった。
「スピィ! スピ~~~~!」
「少し静かにしてもらえるかな?」
「~~~~!?」
スイムの声が止んだ。いつのまにスイムを黒い影が包み込んでいた。この影の影響でスイムは声を発せないようである。
「さて、それでお前はこれからどうするつもりだ?」
そしてシャドウがアイスに問いかけた。
「……どう? お前が何を言っているかアイには理解できない」
「見る限りはお前はネロを氷漬けにしただけだ。今後はどうするつもりだ?」
「…………」
話を聞きアイスが訝しげにシャドウの顔を見た。仮面に隠れていない方の顔には薄い笑みが浮かんでいた。
「――どうもしない。こいつはもうここから動けない。アイスの氷は溶けることなくこの男をここに閉じ込めておくだろう。それで終わり」
そうアイスが答えた。その表情にはどこか影が感じられる。
「……そうか。どうやらネロによってお前の心にも変化が訪れていたと見える」
「何?」
シャドウに指摘されアイスが僅かに動揺を見せた。どうやら彼女にとってそれは触れられたくないものだったらしい。
「お前はさっきまで彼の水の力を一切認めていなかった。だがさっきの発言では逆に認めていた。そして氷漬けにした後の対応――本来ならこの程度で終わらせるつもりはなかったのではないか?」
「――何だお前は。一体どういうつもりだ? そもそも何の目的でここにいる?」
アイスが険しい顔付きで問い返す。シャドウはたまたまここに居合わせたに過ぎない筈だが、アイスは違和感を覚えたようだ。
「別に――私たち仮面人格は顔を仮面で隠している。仮面は顔を隠すと同時に心さえも隠すとされる。故に私たちも興味をもつのだ。アイス、お前がつけている視えない仮面、その下に一体何が隠されているのか――」
そこまで語った直後、シャドウがフッと笑いアイスに人差し指を向けた。
「どうやら誤算が生じたようだな」
「――何を言っている?」
「よく見てみるのだな。お前が凍らせた相手を」
「――ッ!?」
アイスが弾かれたように振り返る。そしてその目が見開かれた。ネロを封じ込めていた氷――そこからポタポタと水が滴り落ちていた。更に蒸気が氷の中から湧き出す。
「な、これは……」
「お前が思っていた以上に、その子の水の力は強かったようだな」
シャドウが答えた直後、氷の棺に罅が入り次第に亀裂が広がっていき砕け散り中から全身水浸しになったネロが出てきた。
「スピィィイィィィイイ!」
スイムがシャドウの腕の中から飛び出しネロに駆け寄った。スイムを覆っていた影は既に消失している。
「スイム、ごめんね心配掛けて」
「スピィ~!」
そして飛び込んできたスイムを優しく受け止めるネロなのであった――
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