第195話 アイスの使命

「水と氷が一緒だと? そんな馬鹿な話ありえない! 水は役に立たない紋章! 存在してはいけない属性。だから凍す!」

 

 アイスは頑なだ。水を認めず氷の方が上だと主張する。だけどそれだけが僕を狙う原因では無いはずだ。


「アイス。君はさっき僕を倒すことが使命と言っていた。それって一体どういう意味だったの?」

「……お前に答える義理はない。一つだけ言える。お前はアイが凍す! 氷魔法・氷双刃!」


 アイスの両手に氷がまとわり付き刃に変わった。そしてその刃を手に僕に向けて斬りかかってくる。


 だけど――大丈夫。これなら避けられる!


「……魔法師にしては中々の動きだ」


 シャドウの声が聞こえた。もしそうみえたならガイのおかげかもしれない。身近でガイの剣捌きを見ていたから魔法師のアイスの動きには目がついていけている。


「氷魔法・氷場演滑ひょうじょうえんか――」


 するとアイスが更に魔法を重ねた。途端に周囲の地面が凍てついて、アイスの足にも変化。氷で出来た刃が足に備わった。まるで靴を履いているかのようにも思える。


「これで決める――」


  一つ呟きアイスが地を強く蹴り地面を滑り加速した。僕の周囲を高速で滑り様子を窺っていた。


 そして加速の乗ったアイスが距離を詰め氷の刃で切りつけてくる。


「お前はアイの動きについてこれない」

「くっ!」


 アイは両腕の刃だけじゃなくて、足につけた刃でも攻撃してきた。正直何も無い時の氷の刃はそこまで怖さはなかったけど、これは別だ。何より地面が凍結したことで足元が滑りやすく僕の動きも制限されている。

 

 逆にアイスは地面を凍らせて滑ることで動きが圧倒的によくなっているよ。


「――ッシ!」


 それでも僕は紙一重のタイミングで何とか躱した。だけどアイスの攻撃は更に苛烈になる。


「アイの攻撃を避けるだけ。お前ではアイには勝てない!」


 確かにそのとおりだね。アイスは徐々に速度を上げている。おまけに僕は氷上では上手く動けない。このまま行けばジリ貧だ。それなら――


「水魔法・水ノ鎖!」

 

 僕も負けじと魔法を行使。だけどこれは攻撃の為ではない。鎖はアイスの腰に巻き付き僕は鎖を掴み地面を滑った。


「お前、何してる!」

「あはは、これ中々楽しいね」

 

 アイスが戸惑っていた。彼女の動きに翻弄されていた僕が、急に腰に鎖を巻き付けて滑り始めたものだからアイスも驚いている。


「こんなもの!」

「ならもう一本!」


 アイスが僕の鎖を断ち切るけどその都度別の鎖を巻き付けた。


「いい加減にしろ!」


 遂にアイスがキレ気味に足を止め僕の鎖を自らの手で引き始めた。無理やり僕を引き寄せて攻撃しようと思ったのだろうね。


 そして僕がアイスの射程内に入りそうになった時、僕はアイスに杖を向けた。


「水魔法・水泡牢すいほうろう!」


 杖から飛び出た泡がアイスの全身を包み込んだ。以前ギルドマスターのサンダース相手にも使用した魔法だ。


 この魔法は巨大な泡で相手を閉じ込めることができる。ただ、その後検証してみたけど、この魔法は泡の届く射程は短いし包み込む泡の動きもそこまで早くはない。


 あの時は正気を失っていたサンダースだから上手く閉じ込める事が出来たけどアイス相手では厳しかった。だからこうして自ら僕を引き寄せてくれたのはありがたかったよ。


「これで君は動けないね。よかった少しは落ち着いてお話できるかな?」

「アイと話す、だと? お前、まだそんな寝ぼけたことを言っているのか」


 アイスが僕をキッと睨んできた。だけど気にしない。この状態ならアイスはこれ以上何も出来ないはずだ。


「アイス。君は水魔法を馬鹿にしていたけど水魔法だって頑張ればここまで出来るんだよ」


 そうアイスに語りかけた。アイスに少しでもわかって欲しい。そして彼女の心を少しでも溶かすことができれば――


「調子に乗るな。この距離はアイにとっても好都合。氷魔法・氷結の棺――」


 アイスが魔法を行使した!? この状況でそう思った瞬間全身にヒヤリとした感覚。僕の全身を包むように冷気が発生しそして足元から徐々に氷付き始めた――

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