第194話 アイスとの戦い?

「やめてよアイス! 僕には君と戦う理由がない!」


 アイスの魔法を壁で防いだ後、僕は彼女に訴えかけた。だけど彼女の目は至極冷たい。


「この期に及んでまだそんなことを。お前にそのつもりがなくてもアイにはある氷魔法・氷輪演舞――」

 

 そう言ってアイスは更に魔法を行使した。無数の氷の輪が形成され僕に襲い掛かってくる。その軌道は変則的でまるで踊っているようにも感じられた。


 輪の部分は鋭利な刃物のようで当たればただでは済まない。


 「水魔法・一衣耐水!」


 この軌道は壁や盾だと避けられてしまい防御範囲外から攻撃を受けてしまう。だから全身に水の衣を纏う魔法で防御を固めた。


「くっ!?」

「スピィ!?」


 氷の輪の一部が僕の肩を掠めた。水の衣を纏っていても完全にはダメージを防ぎきれず鮮血が舞った。


「無駄なことを――」


 アイスが呟き軌道の変化した氷輪が再び迫る――その時スイムが僕を庇うように飛び出した。


「スイム駄目!」

「スピィ!」

「――ッ!」


 スイムに向けて手を伸ばす。だけど迫っていた氷輪が軌道を変えてアイスの元へ戻っていった。これは、アイスが? スイムを傷つけまいと軌道を変えてくれたの?


「スイム、大丈夫?」

「……スピィ!」


 スイムを掴み僕が尋ねるとスイムが元気良く返事した。良かった。でもこんな無茶はもう止めて欲しい。


「スイム。僕の為に飛び出してくれたのだろうけど、もう無茶は止めてね」

「スピィ~――」

 

 スイムをぎゅっと抱きしめるとスイムが細い声で鳴いた。僕にとってスイムは掛け替えのない友達だ。絶対に失いたくない。


「――そのスライムを離れさせておけ。これはアイとお前の戦いだ」


 アイスが僕を睨みながら言った。この子やっぱり根は悪い子じゃないと思う。僕に対してだけ冷たい態度を取っているんだ。


「アイス、聞いてくれ。僕は君と戦いたくない」

「……アイはお前を凍す。それがアイの使命! どうしても言うことが聞けないなら今度はそのスライムごと凍すぞ!」


 アイスが僕に杖を向けて叫んだ。だけそそれはきっと本心じゃないよね。でも、今確かに使命と言った。


 それって僕を凍すことがって事? これは何が秘密がありそうだけど――


「アイス。君はスイムを攻撃できないよ。それは僕にもわかる。君はきっと本当は優しい子なんだよね。でも、わかったよ」


 アイスに向けて気持ちを伝え、僕はシャドウに近づきお願いする。


「少しの間、スイムを預かって頂いてもいいですか?」

「……わかった」


 シャドウの返事は短かったけどスイムを受け取り優しく抱き寄せてくれた。


「スピィ……」

「大丈夫だよスイム。僕が絶対に解決して見せる」


 スイムの頭を撫でて跡はシャドウに任せた。スイムが心配そうに僕を見ていたけど、僕は笑顔で返した。


「……水の紋章では絶対にアイには勝てない。さっきの魔法でそれは証明された」

「――昔の僕ならそう思ったかもしれないけど、今の僕は違う。ただ僕は君に勝とうとは思わないよ」

「何?」

「僕は君の考えを変えたい。そのために戦う」

「――そんなの無理。水しか使えないお前如きにアイは負けない」

「それはやってみないとわからないよ。僕は絶対に諦めない!」

「――生意気。教えてやる。水では絶対に氷に勝てないということ!」


 そしてアイスが再びあの氷輪を飛ばしてきた。先ずはこれをなんとかしないといけない。


「水魔法・水ノ鎖!」


 僕は輪を鎖で絡め取れないか試した。だけど――


「無駄。アイの氷輪はそんな鎖じゃ止まらない」


 水ノ鎖があっさりと氷輪に切断されてしまったよ。


「無駄だと言った。所詮水は脆弱。氷の上にはなれない。自然の摂理がそれを証明している」


 アイスが語った。その言葉、僕はそれに近いことを言われた事がある。そうあれは数年に一度訪れる大寒波があった年――滝や湖も完全に凍てついていた。


『見たかネロ。氷が水に取って代わったぞ。これこそが水の脆さと弱さを証明している。所詮水など脆弱だ。火によって消滅し氷が生まれればそこに存在することも叶わない。まさにこの世にって不必要な物。水などなくても何も困ることはないのだ――』


 それがあいつの考えだった。だけど本当にそうだろうか? 水は勿論世界に必要だと思うし、それに僕は昔から朧気に考えていた。もしかして水と氷にそこまでの違いはないのではないかって。


 そうあの滝にしても水が氷に変化したと考えれば――それなら一体何が要因か――そうだ。氷が水にとって変わる時それは寒い日だった。


 つまり水は冷たくなると氷に? だとしたら逆に氷は――


「閃いた! 水魔法・熱噴水!」


 僕は今閃いたイメージを魔法に変化させ行使した。地面から勢いよく水が吹き出てくる。


「無駄なこと! そんなものでアイの氷は止められない!」

「それはどうかな?」


 アイの操る氷輪が僕の噴水に飲み込まれた。そして氷輪は水の中で、そう熱によって熱湯とかした僕の水の力で溶けていき勢いを失い地面に落ちて割れた。


「よし! やっぱり僕の考えは間違ってなかったんだ!」

「馬鹿な! どうして、どうしてアイの氷が水なんかに!」

「アイス。それはね。氷と水は表裏一体。元々は一緒の物だったんだよ。だからアイス僕たちはいがみ合う必要なんてない――」

「ふざ、けるなぁあああぁああああぁああ!」


 僕はこれをチャンスと考えアイスを説得しようと思ったのだけど、アイスが激昂した。これまでと違って表情にもしっかり怒りの感情が現れている。


 そんなどうして――

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