第191話 怒涛のゴブリン
「戦える奴はビビってんじゃねぇぞゴラッ! それとも試験は諦めるってか? だったら丁度いい! テメェらが動かねぇならこの『栄光の軌跡』が手柄総取りしてやるよ。テメェら全員俺たちの踏み台になりやがれ!」
ガイが叫んだ。それを聞いていた冒険者の内、まだ動ける人たちが怒りを顕にする。
「なめんじゃねぇぞ若造! こっちは経験ならテメェなんかよりずっと上なんだよ!」
「あんなのに馬鹿にされて黙ってられないわ! ほら! とっとと起きなさい!」
「やってやる! やってやるよ!」
そしてガイの言葉に焚き付けられて意気消沈となっていた冒険者たちが再びゴブリンへと向かっていった。
口は悪いけどこれがガイなりの発破の掛け方なんだと思う。
「この俺がいるのを忘れるなよ。誰が貴様なんぞに負けるか」
「ハッ。だったら行動で示せよおっさん」
「誰がおっさんだ! 俺はまだ二十歳だ!」
「え? 嘘、見えないんだけど……」
そんな会話が耳に届く。フィアも中々遠慮ないね。た、確かに僕もレイルはもっと上かなって思ってたけどね。
「――こっちの人は大丈夫。こっちは傷が深すぎて私の魔法じゃ対応出来ないかも。ネロお願いしていい?」
「うん。大丈夫。じゃあ薬を掛けますね」
「す、すまねぇ――」
怪我をした冒険者が呻くようにお礼を言ってきた。足の傷が相当酷くて顔も青ざめている。だから直接患部に生命の水を掛けた。傷がみるみる塞がっていく。
セレナの生魔法は人が本来持つ回復力を増加さえることで治療する。だから内容としては自然治癒に近いんだ。故に怪我の程度によってはすぐに効果は表れない。だけど僕の水にセレナの魔法を込めることで効果が飛躍的に向上し即効性も生まれる。
だから傷が深い相手には僕の生命の水の方が有効だ。ただ瓶の数には限りがあるからね。使い回すにしてもいっぺんには対応できない。
だから生命の水は必要な相手だけに使うようにしてそれ以外のけが人はセレナの魔法で対応していた。
「貴方は毒を受けたのね。大丈夫これなら――」
セレナは毒の治療も行っていた。これも毒への抵抗力を高めて治療するわけで毒によっては効果が薄くなる。ただ今回ゴブリンが使用した毒はそこまで強力でもないようでセレナの魔法で十分対応できるとの事だった。
「ハァアアアァアアアァアア!」
セレナと僕で治療に当たっている間、エクレアが近づいてくるゴブリンたちを寄せ付けないよう戦ってくれていた。
鉄槌を振り回しゴブリンを吹き飛ばす姿はとても勇ましく思うよ。ただ、やっぱり数が多い上、ゴブリンはずる賢い。
わざとけが人を狙うようにしてエクレアを誘導しようともしていたのだけど――
「スピィ!」
そこはスイムも頑張ってくれていた。燃える水をゴブリンに浴びせるとゴブリンの悲鳴が響き渡った。
「よし! おかげで怪我も治った。加勢するぜ!」
「私も!」
セレナの魔法と僕の薬で元気を取り戻した冒険者が戦線に復帰してきた。これでだいぶ楽になるはずだけど――その時、ボコッと土が盛り上がり地面からゴブリンが姿を見せた。
「ネロ危ない!」
「スピィ!?」
「水魔法・水ノ鉄槌!」
エクレアとスイムが叫び、ほぼ同時に僕が魔法を行使。ゴブリンの頭上で水が槌と化しゴブリンを叩き潰した。
その後ボコボコと地面が盛り上がりゴブリンが姿を見せたけどその都度僕のハンマーが振り下ろされていく。
「助かりましたネロ」
「うん。対応出来てよかった。でも驚いたよゴブリンがモグラみたいに潜ってくるなんて」
「違うよネロ。きっとあいつ!」
エクレアが叫んだ。指で示した方を見ると杖持ちのゴブリンによって地面に穴が出来ていた。あれが恐らくゴブリンシャーマン。ゴブリンの中で魔法を使える個体だ。
「魔法が使えるゴブリンは厄介だ! とっとと片付けるぞ!」
「待ってまだ何かいる!」
シャーマンを倒しに向かおうとする冒険者たちをエクレアが止めた。見るとシャーマンの脇を固めるように巨大なゴブリン、そうホブゴブリンが二体立っていた。
しかもあれはただのホブゴブリンじゃない。皮膚が鎧のように変化している。アレは特殊個体のゴブリンアーマーに見られる特徴だ。
だけどあれば見た目からしてホブゴブリン、つまりゴブリンアーマーの特徴を備えたホブゴブリンアーマーといったところかもしれない。
ただ、そんな種がいるなんて僕は知らない。もしかして新種かもしれないけどただ一つ言えるのはかなり厄介なゴブリンであるってことだね。
「おいどうすんだよあれ!」
「しらないわよ! 大体私たちゴブリンだってまともにあいてしたことないんだから!」
冒険者たちに明らかな動揺が広がった。そもそもここにいる冒険者は全員Dランク。知識としては知っていても実戦でゴブリンで戦ったことのある人はそこまで多くない。
あるにしても他の高ランク冒険者のサポートして同行したなどだろう。僕も含めて経験値は圧倒的に足りてない。それが現実だ。だけど――
「気持ちはわかるけど、ここで泣き言を言っても仕方ないよ。やらなきゃ僕たちは全滅なんだ!」
僕はそう叫びホブゴブリンアーマーに杖を向けた。
「水魔法・
魔法を行使。途端に大量の泡がゴブリンシャーマンやホブゴブリンアーマーを取り囲んだ。
「おいおいこんなときにシャボン玉とか遊びじゃねぇんだぞ!」
「偉そうなこと言っておいてなんなのよあんた!」
僕の魔法を見た冒険者たちから非難が飛んだ。やっぱり水魔法だからどうしても信頼度が低いのかもしれないよ。
「ネロのこと何も知らない癖に勝手なこと言わないでよ!」
「スピィ! スピィ!」
するとエクレアとスイムが僕を庇うように声を上げていた。スイムは頭から湯気が吹き出ている。
「ググッォォォオォオォオオ!」
その時ホブゴブリンアーマーの叫び声が聞こえてきた。見ると全身から煙が上がっていて肌の一部が焼けただれている。
「何だ? 何が起きた?」
「これは強酸の泡なんだ。触れたら泡が破裂して強酸にやられる。これであいつらもそう簡単に動けない筈だ!」
僕がそう説明する。もっともこれだけでは決定打にならないだろう。ただ足止めにはなる。今のうちに態勢を立て直して――
「グギャ! ギャギャッ!」
ふと、聞こえてきたのはゴブリンシャーマンが発した声。そしてゴブリンシャーマンが杖を掲げるとホブゴブリンアーマーの全身が淡く光った。
「グォオォォォォオオ!」
途端にホブゴブリンアーマーが咆哮し泡の中に突っ込んできた。そんな、あれに触れたら強酸を浴びることになるのに全く躊躇しないなんて――ゴブリンシャーマンが嫌らしい笑みを浮かべていた。
もしかして何らかの魔法で痛みに強くした? もしくは精神に干渉する魔法だったのかもしれない。
だけどゴブリンシャーマンがそんな魔法を? しかも地面に穴をあける魔法を事前に使っていた。シャーマンといえどゴブリンが種類の違う魔法を操るなんてそんな話は聞いたことがない。
「おい! 出てきたぞ! ロードだ!」
その時、レイルの声がダンジョン内に響き渡った。見るとガイたちが戦っている方向からとんでもない圧力を纏うロードが姿を見せていたのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます