第186話 ゴブリンという厄介な問題

 話を聞いて僕もそっと壁から覗き込んだ。身長は百二十から百三十センチ程度で肌が緑色、頭からは小さな角が生えている。これらはすべてゴブリンの特徴に一致してるよ。

 

 ゴブリンは厄介な魔物の一つだ。単体の普通の・・・ゴブリンはそこまで強くない。


 ただしゴブリンは基本群れて行動する上、繁殖力が高い。見つけた時にはかなりの数のゴブリンがいるとみていい。


 実際今覗き見ると六体のゴブリンが屯していた。それぞれ剣や斧で武装していたよ。


 ゴブリンは拾った武器を使ったりと結構器用な魔物だ。中には鍛冶に長けたゴブリンもいるので鉱山の近くに出現するとそこを拠点に武装化したりする。


 ただ――違和感があった。


「あのゴブリンの装備。随分と新しいような……」

「そんなのここで拾ったんだろう。ダンジョンなら宝箱からあんなのが手に入ることもあるだろう」


 僕の疑問にガイが答えた。でも、やっぱり妙だ。幾らダンジョンだからといってそうゴブリンに都合のいい装備が手に入るだろうか?


「とにかくだ。ネロたちも含めれば数では負けねぇ。ゴブリンも単体なら弱いからな。サクッとやっつけるぞ」

「待ってくださいガイ。これはおかしい。一度戻って報告した方がいいのでは?」


 ガイはゴブリンと戦う気満々なようだ。一方でセレナはガイの考えには否定的だった。


「確かに本来ゴブリン退治はそれこそCランク冒険者がこなすような仕事ね。Cランク昇格試験でやるようなことじゃないわ」

「ということは、これはギルド側も想定外の出来事ということ?」


 フィアもセレナと似たような考えなのかもしれない。それにゴブリン討伐の依頼は確かにDランク冒険者にやらせることではない。エクレアの言うようにイレギュラーな事態が起きているのかもしれない。


「だとしてもこのままおめおめと引き下がるなんて俺は嫌だぜ。大体笛だってある。いざとなったら……ま、ありえないと思うがそれを吹けばいい」

「でも、やっぱりギルドの対応を待ったほうがいい気もするけど」

「……たく。ちょっとはやるようになったかと思えばまだそんな弱気な考えなのかよ」


 僕もセレナたちに同意だったのだけどガイが呆れたように言った。弱気、か。もしかしたらそう見えるかもしれないけど最悪はここで無茶して被害が拡大することだと思うんだ。


「お前たちがいかないならそれでもかまわねぇよ。だが俺は一人でもいくぞ」

「待ちなさいガイ。私たちはパーティーを組んでこの試験に挑んでるんですよ?」

「は。確かにパーティーで挑むのは認められてるが結局昇格出来るかは個々のことだ。だったら俺一人で行っても問題ないだろうが。臆病風に吹かれたならネロと一緒にお前らもとっとと引き返せ。役立たずのネロだっていざとなったらお前らを守るぐらい出来んだろう」

「ガイ! そんな言い方無いじゃない!」


 フィアが叫んだ。ガイの発言は一見するととても身勝手なものだ。だけど僕には違和感があった。確かにガイは強気な発言も多いけど、ここまで無責任な発言をする男ではなかったはずだ。


「ガイ。もしかしてこの先に何かあると考えているの? だから自分一人だけでも残ろうと考えているとか?」


「……」


 僕がそう聞くとガイは黙り込んでしまった。どうやら図星みたいだね。


「……やっぱり僕もいくよ」

「は? ふざけんな! 何突然やる気出してんだ!」

「う~ん。何かガイだけにいい格好させるのも癪だからかな? それに確かに何もなく戻るよりも何が起きているか確認した方が試験に有利かもだしね」

「……チッ。そうかよ。なら好きにしろ!」


 ガイが吐き捨てるように言った。悪態をつきながらもきっとガイは誰よりも仲間のことを思ってるんだろうな。


「仕方ないわね。私も付き合うわよ」


 するとフィアが後頭部をさすりながらやれやれと言った様子で答えた。


「……ふぅ。こうなったら言っても聞きそうにありませんね」

 

 セレナもため息混じりに仕方ないといった空気。


「あはは。でも私、このメンバーなら何が起きても大丈夫な気がしてるんだ」

「スピィ~」


 エクレアも鉄槌を片手に笑ってみせた。スイムも任せて~と鳴いていた。


「じゃあ皆で――」

「――お前ら今すぐ離れ、くそ!」


 その時ガイがギョッとした顔で上を見た。反射的に僕も顎を上げると上から岩石が降ってきているのが見えた。


「どうして上からッ!?」

「スピィ!?」

 

 フィアとスイムの緊迫した声を耳に残しつつ、僕は新調した杖を掲げた。


「水魔法・水守ノ盾みまもりのたて!」

「勇魔法・天雷!」

「ハァアアァアアア!」


 ガイの魔法で雷が落ち落石が砕けた。そして僕の魔法で生まれた水の盾が落ちてきた岩石を塞ぎ、さらに跳躍したエクレアが残りの落石を鉄槌で弾いた。


「ふぅギリギリ」

「でもどうして落石が」

「くそが! どうやら嫌な予感があたったようだぜ。見ろ!」


 ガイが指さした方、そこにはゴブリンの姿。しかもただのゴブリンだけじゃない。ゴブリンよりも大きく屈強なホブゴブリンも一緒だった。


 きっと岩を落としてきたのはあのホブゴブリンだろう。それにしても上にまでいたなんてまさかもうここにはかなりの数がゴブリンが?


 だとしたらガイが気にしていたことってまさか――

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