第187話 危険なゴブリン
上からホブゴブリンが岩を落としてきた。しかも連中は上を占領したまま再び岩を落とそうとしているようだ。
「不味いわよ! こっちからも来てる!」
フィアが叫んだ。元々下にいたゴブリンも今の岩の音でこっちに気がついてしまったからだ。このままだと上下からの挟み撃ちにあってしまうよ!
「速攻でケリつけるぞ!」
「う、うん! 水魔法・噴水!」
ガイの声に反応して魔法を行使。こちらに向かってきていたゴブリンの足元から水が吹き上がりゴブリンが打ち上げられた。
「はぁあああぁああ!」
エクレアが飛び出し電撃の迸った鉄槌で打ち上がったゴブリンを地面に叩きつける。僕の噴水で濡れたゴブリンはエクレアの追撃もあって感電した。
これでもう立ち上がれない。
「向こうにいくぞ!」
ガイが指さした方向に横穴が見えた。そこに入れば上からの攻撃は怖くないね。
「はぁ、はぁ、びっくりしたぁ」
「でも、これでもう戻れないですね……」
フィアが胸に手を添え息を整え、セレナは僕たちがおりてきたハシゴを確認して呟いた。確かに上をゴブリンにおさえられている以上、戻るのも簡単ではないよ。
「嫌な予感はしてたが、これだけ多いと俺が思っている以上にやばいかもな」
ガイが真顔で言った。ガイの思ってることは僕と同じなのかもしれない。
「もしかしてガイが懸念しているのって――
僕が問いかけるとガイは一瞬沈黙。
「あぁ。そうだよ」
だけどそのあとぶっきらぼうに答えた。やっぱりそうだったんだ。ゴブリンのように群れをなす魔物の中には時折ロードが生まれる事がある。ゴブリンの場合はゴブリンロードと呼ぶし他の魔物でも似た性質を持つのもいる。
「ガイ。その可能性があるとわかってて一人ででも行こうとしてたのですか? それならそうと言ってくれればよかったのに」
「確信もないことをベラベラ得意げに語れるかよ」
セレナが眉を落としながら言った。それに対しガイは眉を吊り上げ返答したよ。
「別に得意気である必要ないでしょう全く」
フィアが腰に手を当てつつため息をついた。はは、ガイのこういうところ不器用だなって思えたりするよ。
とはいえ、これだけの状況になるとガイの予想は当たっている可能性が高いと思う。ロードが生まれると自然にゴブリンの士気も上がりロードの指揮下で組織的に動けるようになる。
こうなってくると通常のゴブリン討伐とはわけが違う。恐らく求められるランクもより上がることだろうね。実際のところ僕たちはゴブリンもロードも相手したことがないからどの程度の力か判断がつかない。
一応今、ゴブリンを相手した感じだと戦えない相手ではないと思うのだけど――ただそれも相手が通常のゴブリン、しかも数体だからだ。
「それにしてもロードがいるとなると厄介ね」
フィアが腕を組みながら呟いた。確かにそれは間違いないことだと思う。
「笛を吹いた方がいいかな……」
「スピィ……」
エクレアがポケットから件の笛を取り出して呟いた。この笛を吹いたら猛獣狩人のパーティーが助けに来てくれるはずだけど。
「その必要は多分ねぇよ。これだけゴブリンがいるんだ。他の連中も見つけてるだろう。誰かが吹いてる可能性が高い」
「でも一応はこっちでも吹いたほうが」
「場所が悪いんだよ。こいつらは悪賢い。俺らがいなくなったのを確認してまた次の獲物相手に挟撃を狙ってくる可能性が高い。ホブゴブリンだっている。はっきり言えばこっちルートには来ないほうが助かる」
ガイが腕を組みながら答える。たしかにそう言われてみればそうかもしれない。恐らく他にもルートがあるだろうからね。でないとダンジョンに入っった受験者が全員こっちに来てないとおかしいわけだし。
「とにかく俺たちは戻ることが出来ない。この先に向かうしかないんだよ」
ガイがはっきりと言い放った。まさか試験の為に来たダンジョンでこんなことになるなんて思わなかったけど、このまま留まるわけにもいかない。
もしロードが現れてダンジョンに無数のゴブリンがいたならこうしている間にも向かってくる可能性がある。
「わかりました。なら――行きましょう」
「戦闘が起きたときのために作戦を考えておかないとね」
ガイの話を聞きセレナが力強く言った。フィアも覚悟を決めたようだ。僕、エクレア、スイムも同じ気持ちだ。
「いくぞ。とにかくここを離れる」
ガイが奥に進んでいく。僕たちはその後を追っていくことになった。
「奴らが何を仕掛けてくるかわからねぇからな。お前ら足を引っ張るなよ」
「あんたこそそんな考えなしに突き進んで大丈夫なの?」
悪態をつくガイ。実際のところは気をつけろと忠告してくれてるんだと思うけどね。フィアはそんなガイに油断しないよう指摘する。
そして――僕も気をつけて進んだのだけど。
「ガイ待って!」
「あん?」
僕が呼びかけるとガイが怪訝そうに振り向いた。なので僕はガイの足元を指さし伝える。
「そこ何か張られてる」
「何だと?」
僕の指摘した場所に視線を落とすガイ。そこには細いワイヤーが見えた。
「チッ!」
ガイが剣でそれを切るとヒュンッと矢が飛んできた。これは罠だ。
「これってダンジョンの罠?」
「スピッ!?」
エクレアが誰にとも無く問いかけた。スイムも驚いていた。
「違う。ゴブリンの罠だ。ダンジョンの罠ならこんなワイヤーが張られたりしねぇからな」
ガイが答えた。確かに――ダンジョンの罠は床を踏むなどで反応し発動することが多い。あとは宝箱かな。どちらにしても通路にワイヤーで罠を仕掛けるというのはダンジョンでは見られない。
つまりそういう罠が仕掛けられているということは何者かが物理的に仕掛けたということになるけど、この状況だとゴブリンとしか考えられないよね。
「ガイ。近くにゴブリンがいるかも」
「わかってるよ。こんな罠まで仕掛けてくるなんてな糞が」
ガイが気色ばんだ。ゴブリンが罠を仕掛けるのは有名な話だ。だからそれ自体は別におかしなことでもない。
問題はこうやって罠を仕掛けられるぐらいにゴブリンには余裕があったということだ。少なくともこの層はゴブリンに侵食されてしまっている可能性が高い。
「一体どれだけゴブリンがいるのかしら?」
「それなりに多いかもしれねぇ。とにかく油断はするなよ――」
『くそ! なんだコイツらは! たかがゴブリンの癖に!』
その時、奥から叫び声が聞こえてきた。この声、聞き覚えがある。叫んでる内容から察するにどうやらゴブリンに襲われているようだ。
「まずいよ。助けにいかないと!」
「待てネロ! 迂闊に動いても奴らの思うつぼだ!」
「でも放ってはおけないよ!」
ガイは僕を制止したし言ってることもわかるけど、それでも黙って見過ごすわけにはいかない。
「私も行くよ!」
「スピィ!」
エクレアとスイムも僕の後についてきてくれた。
「糞が! だからお前は甘いってんだよ!」
「そういいつつガイもしっかり追いかけるんですね」
「ガイが動かなくても私は動いたけどね」
後ろからガイたちの声も聞こえてきたよ。なんだかんだ言っても放ってはおけないようだね。とにかく手遅れにならないように急がないと!
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