第184話 やってきたのは兄だった男
「ま、私も急すぎたかもしれないね。お嬢さん怪我はありませんか?」
僕を見た後のフレアの視線は家で嫌というほど味わったものだった。扱う魔法とは対象的に酷く冷たい。
ただエクレアに目を向けた途端悪意のない笑顔に変わる。でもエクレアはフレアの視線を受け、怪訝そうな顔を見せていた。
「スピィ……」
スイムも僕の胸の中に飛び込んできて細い声を上げた。少し、震えているようにも見えた。本能的にフレアのことを怖いと思ったのかもしれない。
「あの、僕たちのことはどうぞお気になさらず。調査に来られたんですよね?」
「…………」
あまり長々と話していたい相手でもないので、そう話を振った。その答えにフレアは眉を潜めたけど答えることなく他の二人と一緒に僕の横を素通りした、ように思えたのだけど。
『お前のようなゴミがまだ生きていたとはな――』
すれ違いざまにそう囁いていった。僕だけに聞こえるように言ったんだろう。エクレアやスイムは気がついていない。
やっぱり変わってないな。家にいた頃からフレアはそうだった。いやフレアだけじゃないのだけどね。
「既に連絡は来ていたと思うけど、この森の調査は私達が担当することになった。手間を掛けてしまうけど試験の続きは次の場所でしてもらえると嬉しいかな。それで問題ないよね?」
フレアがその場の全員に聞こえるように話した。わりと砕けた話し方だったので中には親しみやすいかもと口にしている冒険者もいる。
あの人はそういう人だ。一見すると人当たりはとてもいい。
「私、ちょっと苦手かな……」
ふとエクレアが僕の横でそんなことを呟いた。フレアのことなんだと思う。
「ほら今聞いたとおりだ。ここは調査団に任せてとっとと次の場所に向かうぞ」
「それでは皆さん私達の後についてきてください」
パンパンっと手を叩きシルバが先に進むよう促した。次の試験場所に向かうことにする。
直後背中に視線を感じた。振り返ると見えたのはフレアの背中だったよ――
「よし。ここだ」
「や、やっとついた……」
「一体どれだけ歩かせるのよ……」
あの森を離れた後、シルバとビスクの後についていったのだけどとにかく歩いた。しかも二人のペースはかなり早かったのでついていくのにも苦労した。
朝から出発したわけだけど目的地についたころにはとっくにお昼は過ぎていたと思うよ。
「こんなことでへばっていたら先が思いやられるぞ」
疲れたと地面に腰をおろして愚痴を口にしている冒険者を見て、シルバがやれやれといった様子を見せていたよ。
「ガイたちは大丈夫?」
僕はなんとなくガイたちを見て聞いてみた。といってもガイは全然大丈夫そうだけどね。魔法系のフィアとセレナはどうかな?
「ハッ。問題ねぇよ。この程度で文句を言ってる奴が情けないんだ」
「またガイ。そんなこと言って」
周りを挑発するようなことを言ったガイにセレナが注意していた。
「本当敵を作るタイプよねガイは」
「あはは。ところでフィアは平気?」
呆れたようにため息を吐くフィアにエクレアが聞いていた。
「私は大丈夫。実はセレナに魔法を掛けてもらって疲れにくくしてもらったのよ」
フィアがウィンクしながら答えていた。そういえばセレナの魔法にはそういう補助系の魔法もあったんだった。
「エクレアとネロは平気?」
「私は体力には自信があるし大丈夫だよ」
「僕もちょっと疲れたけど、うん。大丈夫」
「スピィ~♪」
「あはは。スイムも元気そうだね」
そう言ってフィアがスイムの頭を撫でた。
「お前ら次の試験の内容を説明するぞ。聞いてなかったとしても同じことは二度言わないからな」
シルバが全員に聞こえるように声を上げた。うん、ここはしっかり聞いておかないとね。
「というわけだ。後は頼むぞビスク」
「そこまでいっておいて説明で投げないでよもう」
シルバに説明を任されビスクが額を押さえていた。どうやら僕たちに説明するのはシルバじゃないみたい。
「えっと、それじゃ簡単に説明するわね。ここから少し進んだ先にダンジョンがあるわ。今回の試験はこのダンジョンの探索よ。なお今回は情報は一切なし。手探り状態でどのぐらい出来るかやってみて」
それがビスクからの説明だった。ダンジョン攻略――冒険者の醍醐味とも言える題材だね。
「それでダンジョンで何をすれば試験には合格なんだ?」
レイルが二人に聞いていた。流石に多少は落ち着いたのかレイルも試験に意識を向け直したようだよ。
「基本的にはダンジョン内で手に入れた戦利品で評価するわ。今回はリストもないからダンジョンで倒した魔物の素材も含めてすべて評価の対象になると思っていて」
なるほどね。やることはいつものダンジョン攻略とかわらなさそうだよ。唯一の違いはその成果で試験の合否が決まるということだね。
「ちょっとまってくれ。ずっと疑問だったんだが前回の結果はマジで無効になるのかよ?」
受験者の一人が疑問を呈した。おそらく採取した素材などが全て無駄なのかと聞きたかったのだと思う。
「それは今回の探索と合わせて評価するわ。全員回収した素材は取ってあるでしょう?」
ビスクが答えた。確かに僕たちも集めた素材は持ってきている。
「それと後二点。一つ今回のダンジョン攻略用に魔法の袋を貸し出すことになっているから取りにきてね。これ以上の収納道具の使用は認められないから気をつけること」
魔法の袋か――ダンジョン攻略は長丁場になるから前回と違って多くの戦利品を収納できる道具を用意してくれたんだろうね。
「あとは緊急用の笛ね。これも魔導具で鳴らせば猛獣狩人のメンバーが助けに向かうわ。ただしあくまで緊急用よ忘れないでね」
「ま、そういうわけだ。本当にヤバい時は頼ってくれや。ガッハッハ」
そういってノーダンが笑った。ただあくまで緊急用と強調しているあたり、笛を使ってしまうと評価に影響すると思う。
ダンジョン内で危険を回避する能力も検証されているとしたら安易に笛に頼るわけにはいかないかもね。
「――ダンジョン内で死亡した場合はどうなる?」
アイスからの質問が飛んだ。前回のこともあったらギョッとしてしまったよ。
「ダンジョンには危険がつきものだ。死んでも自己責任だぞ。勿論前回のような殺しなら話は別だがな。ま、不安があるなら素直に辞退してDランクとしてやっていくこった」
アイスの質問にシルバが答えた。だけどそれを聞いても辞めると言い出す人はいなかった。
「どうやら全員試験を続行するということで問題ないようだな。それならビスクから今言っていた魔法の袋と笛を受け取って速やかにダンジョン攻略に向かうんだな」
そうシルバに促され僕たちは二つの道具を受け取ってダンジョン攻略に向かうことになった――
作者より
https://kakuyomu.jp/works/16817330662503996188
『異世界に召喚された俺だが、現代で培った格ゲーの知識と技術で余裕で生き抜いて見せる~ステータスが俺だけ格ゲー仕様だったけど、最強だから問題ありません!~』という新作を後悔しました。現代の格ゲ-を極めた男が異世界に召喚され格ゲーの力と知識で無双します!リンクから作品ページに飛べますので少しでも興味が湧きましたらチラッとでも読んで頂けると嬉しく思います!
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