第183話 アクシス家の長男
「な、フレア・アクシスだと? まさか管理局とはいえ冒険者にあの一族が――」
レイルが驚いていた。アクシス家は一貴族として見てもその影響力は計り知れない。伯爵家の子息であるレイルなら知っていて当然だと思う。
それにしてもまさか管理局に務めていたなんて――僕だって驚きだよ。家での僕は落ちこぼれ扱いだったから、あの人が何をしているかなんて教えてもらったことはないから知らなくても当然なんだけどね。
でもアクシス家は代々魔法の名家として知られていた。故に代々魔法関係の職に就くことが多かったわけで――だから長男が管理局だなんてビックリだよ。
あ、でも姉さんは冒険者やっていたんだった。もっとも姉さんは他の皆とはちょっと違っていたんだけどね。
「ネロどうかした?」
「え? どうして?」
「う~ん。何か難しい顔していたから」
「スピィ~」
エクレアがスイムを抱き寄せて撫でながら聞いてきた。スイムもどうしたの~?といった様子を見せている。
「えっと。管理局から来るというのがちょっと気になったんだ。僕も無関係じゃないから……」
「あ、そうか――でも大丈夫だよ。ネロは何もしてないんだし」
「スピッ!」
エクレアが優しく微笑みかけてくれた。スイムもエクレアの意見に同調している。もっとも本当は別の意味で気になっているんだけどね。ちょっと誤魔化しちゃったな。
「ネロお前――いや、なんでもねぇ」
「え?」
ガイが何か言いかけたけど、止めたみたいだ。ただ表情は険しく感じるよ。
「とにかくこれで納得できたかしら?」
「……フン。まぁいい。あのアクシス侯爵家が関わるなら証明してくれるだろうからな。そこの無能が犯人だと」
レイルが鼻で笑いながら僕を指さしてきた。全く是が非でも僕を犯人にしたいようだね。
ただ、あの家が関わるというのは僕にとっても気がかりだ。
「理解してくれてよかったわ。それなら場所を移動するわよ」
「待て! 弟の遺体をこのままにしておくのか!」
「基本的な処置はしてあるわ。調査に来る以上ここに残しておく必要があるから理解して頂戴」
「ま、もうこっちに向かってるようだしな。直にに調査団も来るはずさ」
「はは、それなら心配ご無用。もう着きましたよ」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
冒険者たちの声が揃った。何者かの声、いやフレア・アクシスの声が上から聞こえてきたから驚いたのだろう。
「――空飛んできたのかよ」
ガイが上空の相手を睨みつけるようにしながら言った。僕も見上げたけど、ガイの言うように空から来たようだ。フレアは足から炎を噴射させて空中で待機していた。その周囲にも二人――管理局の人間なのだろう。男性が一人女性が一人だ。その二人も空にいて男の方はどういう理屈かはわからないけど空中で立っていた
一方女性の方は箒に跨り空中で静止している。
「今降りるけどちょっと場所を開けてもらえるかな? 後、私が降りるとわりと衝撃が凄いから離れておいてね」
そうフレアが言った。全員顔を見合わせた後、一斉に距離を取る。
「ネロお前は特に距離を離しておけ」
「え?」
ガイがそんなことを言いながらフィアやセレナと一緒に他の冒険者に続いた。僕としてもそこは気にしていたけどガイがどうして?
「えっと言われたとおりにしようか」
「う、うん」
「スピィ――」
僕たちも皆に倣って離れようとしたけどその時、噴射の音が近づいてきた。
「エクレア早く!」
「え? ちょッ」
「スピィ!」
慌てるエクレアの腕を取って足早に移動した。スイムはエクレアの肩に乗っている。
直後後ろから轟音が響き渡り爆風が駆け抜けた。
「キャッ!」
「スピィ!?」
エクレアとスイムの悲鳴が聞こえた。あいつ――絶対僕たちが動き出すのを確認してやってきたよね――
「大丈夫ネロ! エクレア! スイム!」
「う、うんちょっとビックリしたけどね」
「スピィ……」
フィアが心配そうに駆け寄ってきた。確かに衝撃はあったけどそれで怪我したり火傷をしたりはない。ただちょっとでも反応が遅れていたらどうなったか。
「おやおや離れてくれと言ったのに随分と手際の悪い冒険者もいたものだ。そんなことで大丈夫なのかい?」
背中に突き刺さる声。振り返る。そこにはたしかにいた。忘れもしない炎のような赤い髪が特徴の男でアクシス家の長男――フレア・アクシスが……。
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