第182話 管理局からの回答
「シルバ――管理局からの回答が来たわよ」
「おお。意外と早かったな」
明朝――ビスクが一枚の紙を手にしシルバに伝えた。シルバは興味深そうにしていた。
「通信用魔導具のおかげね。文字のやり取りなら離れていても可能だもの」
通信用魔導具――見た目はただの水晶だが文字を水晶に記憶させ遠方にある対になった水晶で投影させることでメッセージを確認できる魔導具である。
一度に遅れる文字数は限られているが簡単なやり取りならこれでも十分事足りるのである。
「で? 管理局はなんて送ってきたんだ?」
「それが『――ショウカクシケンケイゾク。タダシバショヘンコウ。モリ二チョウサダンハケン』――とのことよ」
そう説明しつつビスクがため息をついた。一方シルバは笑みを浮かべてビスクの肩を叩いた。
「良かったな。これで中断となったらまた日程調整とか面倒だったからな」
「はぁ~。貴方は単純ね。正直私は絶対に中止だと思っていたわよ。試験中に伯爵家の子息が殺されたわけだしね」
「そんなの冒険者ギルドには関係ないだろう? 権力に屈しないのが冒険者ギルドだろう?」
「それはそうだけど、今回は事情が違うじゃない。試験中に殺されたなんてギルドの管理体制が疑われるわよ」
ビスクは呆れ顔だった。実際シルバが言った通り、冒険者に権力は通用しない。だが、責任が全く生じないというわけではない。
「それに一つ気になることもあるのよね」
「気になること?」
ビスクの疑問にシルバが問い返した。
「通信は二回に分けられて来たのだけど、二回目の文章には調査団のメンバーが記されていたの。その中に――あのアクシス家の長男の名前があるのよ……」
◇◆◇
朝になりシルバとビスクから試験がどうなったかについて説明があった。皆も興味津々に聞いているよ。
「結論で言えば試験は継続だ」
「ふざけるな!」
シルバからの話では試験はこのまま続くらしい、のだけどそれにレイルが噛み付いたんだ。
「俺の弟が殺されたんだぞ! しかも犯人はそこの無能の可能性が高いんだ! だったら先ずは調査だろう!」
レイルが憤っているのはやはりロイドの事があったからだ。僕としても犯人が誰かは気になるところだけど、やっぱり彼は犯人が僕だと考えているようだね……。
「あいつ、まだあんなこと言って!」
「ネロ平気?」
「う、うん。僕はもう大丈夫だよ」
「スピィ……」
フィアがレイルを睨みつけ、エクレアが僕に気遣いを見せる。スイムも心配そうに細い声を発していたよ。
一方でガイは無言で聞いていたけど表情は険しかった。
「レイル。説明はまだ終わってないわよ。確かに試験は継続だけど、この森には管理局から調査団が派遣されます。ロイドについてもしっかりとした調査が入るわ」
「フンッ。それならとっとと寄越せ。それとも冒険者ギルドはカートス伯爵家を敵に回したいのか?」
レイルの声には不満が滲んでいた。だけど、だからといって家名を出して脅すような真似は感心できないよ。
「アッハッハ! 全くカートス伯爵家には随分と間抜けな息子がいるもんだな」
「ちょノーダン!」
レイルの発言を聞き猛獣狩人のノーダンが口を挟んだ。その発言にババロアが口を塞ごうとしたけどもう遅いよね……。
「貴様! この俺を愚弄するつもりか!」
「ムゴムゴムゴ」
「ノーダンもう黙りなさい」
ノーダンは何か言い返したいようだけどババロアが口を塞いでそれを許さない。余計な揉め事に発展するのが嫌なんだと思うよ。
「ノーダンの言い方こそ良くなかったと思うが、そもそも冒険者ギルドに権力は通用しない。そんなことは常識の筈だが?」
ここで口を開いたのはケッタソイだった。ノーダンと違って淡々とした口調だけど棘は感じられるね。
「そういうことだ。お前も下手に家名なんて出せば逆にその名を汚すことになるぜ」
シルバが諭すように言った。レイルが顔を顰め口を開く。
「グッ! 百歩譲って調査団が来るとしてそいつらが無能だったらどうしようもないだろうが! 何せこの場でむざむざと弟が殺されたぐらいなのだからな!」
「……それについては言葉もないわ。ただ、そうね。本当はギルドとしてはあまり名前に頼りたくないけど、貴方なら納得してくれるかしら? 今こちらに向かってる管理局の調査団――そのリーダーを務めるのはあのアクシス家の長男。フレア・アクシスよ」
その名前を聞いた瞬間、自分の顔が強ばるのを感じた。そんな、まさかここでその名を聞くなんて――
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