第181話 仲間は仲良くが一番

「二人は一緒に活動して長いんですか?」


 エクレアがアイスともう一人の男性に聞いた。二人の様子を見てエクレアも何か思うところがあるのかもしれない。


「……そんなことないさ。試験になって急に組まされただけだ。正直言えば俺だってこんなのと組むなんて勘弁して欲しかったんだけどな」

「――それはアイも一緒。お前アイにあっさり負けた癖に生意気」

「ぐっ! くそ! たしかにそうだが俺の方が冒険者としては先輩なんだからな。お前呼ばわりとかこっちにはザックスって名前があんだよ。少しは先輩を敬えや!」

「――自分より弱い奴を敬う理由なんてない。その口閉じないとこごすぞ!」


 ザックスが彼の名前なようだね。そんな彼を睨めつけるアイス。なんとも言えない険悪な空気が感じられるよ。


「アイス。いい加減にしなさい」

「痛ッ!?」


 その時フィアがアイスの頭を杖で小突いた。頭を擦りながらアイスがフィアに目を向ける。


「確かに冒険者は実力主義なところがあるけど、それとこれとは話は別よ。親しき仲にも礼儀あり。ちゃんと相手のことを考えて発言しなさい」

「――む~」

 

 アイスが不満そうに唸り声をあげた。その様子をポカンっとした顔で見ていたのはザックスだった。


「そうだよアイス。貴方も本当は素直でいい子なんだと思うし、そうやって相手を見下すような真似は感心しないな」

「スピィ~スピッ!」


 エクレアもフィアに続いてアイスを諭し、スイムもそうだよと言わんばかりにピョンピョン跳ねているよ。


「そうですよ。素直に相手を認めることだって大事なんですから。そうじゃないと無駄に意地ばかり張って誰彼構わず噛み付いて敵を作る誰かさんみたいになっちゃうんですからね」

「おい。それ誰のこと言ってんだよ?」

「さぁ誰でしょうか?」


 ガイが眉間にしわを寄せながらフィアに聞くけどフィアはそれをさらっと笑顔で返す。


「と・に・か・く、一緒に試験に挑んでいる仲間なんだから仲良くやらないとね」

「……善処する」

「おいおいマジかよ。アイスのこんな姿が見れるなんてな。明日は雪が降るぜ」


 ザックスが感心したような驚いたようなそんな顔で言い肩を竦めて見せた。その発言が気にくわないのか、アイスは彼に睨みをきかせたが、エクレアとフィアに窘められ睨むのを止めていた。


 う~ん。でもこれでふたりの仲が改善されればいいんだけどね。


「お前のことだから、もっとふたりとも仲良くなればいいのにとか思ってんだろうな」

「え? 凄いどうしてわかったの?」


 思っていたことがガイに見透かされ驚いてしまった。ただガイはどこか呆れ顔を見せる。


「たくテメェは。試験がこのまま続くならあいつらだってライバルだ。ましてアイスって女はお前に敵対心を燃やしている。そんな奴らの仲を取り持つ必要なんて本来ないだろうが。揃いも揃ってお人好しだぜ」


 そう言ってガイが顔を顰めた。う~ん確かにライバルと言えばライバルかもだけど――でも同じ冒険者なのは確かだし仲がいいのにこしたことはないと思うんだよね。


 それにガイだってなんだかんだ僕たちと食事を共にしているし、以前とは雰囲気も変わってきている気がするんだよね。


 一度は追放こそされたけど、この試験を通してもっとわかりあえたらいいと思うんだけど――そんなことを考えながらその日の夜は更けていった……。






◇◆◇

とある闇夜の会話――


「――まさか殺すなんて思いませんでしたよ。予定にはなかったですよね?」

「……あの杖は想定外だったからな。だが問題ない。お前たちは引き続き任務を続けておけばいい。それと――あのネロという冒険者には特に注意を払っておけ」

「あの水の紋章持ちですか――そこまでする理由が?」

「あの杖持ちとの戦い、あいつの紋章は明らかにこれまでの・・・・・とは違った。杖の記憶とやらが反応していた程にな。今はまだ取るに足らない相手ではあるが、その内に厄介な存在になるかも知れない」

「――わかりましたよ兄様。とはいえ今回はあくまで」

「あぁそうだ。あくまで試験がメインなのだからな。とはいえ、私も多少は手を回すかもしれないがな――」

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