第168話 杖の記憶
「――ふむ。全くわしをこんなところに呼び出しおって」
唐突に――ロイドの口調が変わったよ。なんとなく高齢の空気を感じる。しかも演技っぽさはない。
「――ロイド……なの?」
思わず問いかけた。纏う空気があまりに違ったからだ。
「ふむ。それは本体の話じゃな。わしはこの杖に刻まれた記憶。それをこやつの魔法で具現化した物、と認識しておる。つまり体はロイドという男の物だが今の精神はわしドヴィンの物じゃ」
ドヴィン、杖の持ち主の記憶。それを呼び起こしたのがロイドの魔法で奥の手だったのか。そして今僕と話しているのが元の持ち主ドヴィンということらしい。
「ま、説明は以上じゃ。わしもこうして呼ばれた以上、今の所持者の意思には従う必要があるのでな風魔法――」
ドヴィンが杖を振り上げた。どうやら攻撃してくるつもりなようだ。ロイドの意思、つまり僕と戦っていたロイドの代わりに戦闘を仕掛けてくるということか。
そして使用してくるのは風魔法、一体どんな――
「尖鋭の突風」
「――ッ!? 水魔法・水柱!」
瞬間的に危険だと思った。最初は盾で守ることを考えたけど駄目だ。この魔法には貫かれる。だから水柱に乗って上に逃げた。
しかしドヴィンの魔法は水柱も突き破って進んでいく。森にまさに風穴が開いた。
柱が崩れ僕の身が落下を始める。魔法の練度が高い。この人ロイドよりはるかに強い!
「風魔法・双風の翼――」
破壊された水柱から落下した僕に反してドヴィンは背中に風の翼を生やし飛び立った。
地面に着地した僕を、ドヴィンが上空から俯瞰してくる。不味い。まともに相手していたらかなり手強い――だけどもし杖魔法の特性が変わらないなら……。
「水魔法・水ノ鎖!」
僕の杖から伸びた水鎖が上空のドヴィンに向かって伸びた。狙いは杖だ。ロイドの魔法は杖がなければ成立しない。ドヴァンが杖の記憶でしか無いなら、杖を奪えはドヴァンの意思は保てない筈だ。
「ふむ、なるほどのう。じゃが――風魔法・風の鎧」
ドヴァンが魔法を行使すると旋風が発生しドヴィンを守るように水鎖を弾いた。そしてそのまま風に乗ってドヴィンが僕に向かって急降下してきた。
「甘かったのう。お主がこやつから杖を奪った記憶はわしにも確認出来るのじゃ。風魔法・風翼の突撃」
ドヴァンが猛スピードで僕に向けて突っ込んできた。この勢い水の盾じゃきっと防げない。
それなら一衣耐水――いや、これは全身に纏う分、発生までに若干時間がいる。あのスピードだと間に合わない。
それなら――より頑丈で早く……。
「閃いた! 水魔法・水守ノ壁!」
頭に浮かび上がった魔法を行使。目の前に水の壁が発生した。これなら盾より頑丈だ――そしてドヴァンが水の壁に突撃しせめぎ合いという形になった。
壁越しにものすごい圧を感じてしまう。お願い持って! そう願う僕の気持ちに答えるようにドヴィンが壁に跳ね返された。
「ほう――ここまでとはのう」
「まだだよ水魔法・重水弾!」
続けて僕が扱う中で最大威力の魔法を行使。極度に圧縮された水弾がドヴィンに向かって飛んでいく。でもドヴィンもまた風の鎧によって守られている。
そして今度は僕の攻撃魔法とドヴィンの防御魔法がせめぎ合う形となった――
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