第164話 謎の仮面の乱入

「ネロ――気をつけて。何だか嫌な予感がする」

「スピィ……」


 エクレアが警戒心を顕にした。全身から電撃が迸っているかのようにピリピリと張り詰めた顔をしている。


 それを聞いて僕の肩に乗ってるスイムも怯えたような鳴き声をあげている。


運命さだめを受け入れよ――』


 仮面の人物が頭上から声を発した。抑揚の感じられない冷たい響きだった。右手の甲を翳すとはっきりと視えた。そこに刻まれた黒い紋章を――


「不味い! あいつ黒い紋章持ちだ!」

「え? あいつが――」

「スピィ!」

「え? 一体何の話だい?」


 僕たちのやり取りを聞いてライトが不思議そうな顔をしていた。黒い紋章は基本的に人の目には映らない。ただ僕はそれを視認することが出来るんだ。


『運命の湾曲――』


 仮面の人物がそう呟くと同時に突然視界がぐにゃりと変化した。エクレアやスイム、そしてライトの体もねじれたように変化しかと思えば突如どこかに放り込まれたような感覚を覚えた。


「ネロ! スイム!」

「スピィ~!」

「スイム! エクレア!」


 思わず僕たちは互いに呼びかけたけど、あっという間に声が遠ざかり刹那――視界が元に戻った。


「――森、試験の場所から変わってはいない?」


 妙な感覚に頭を押さえながら周囲を見回した。木々に囲まれた場所でなんとなくだけど元の森から離れたわけじゃないと感じ取った。


 ただ――エクレアとスイム、そしてライトの姿がない。どうやら散り散りにされたようだよ。


 だとしてここはどこなのか? いや、それよりも早く皆と合流しないと――


「おやおや。これは驚きだ。まさかここで小生意気な無能と出くわすなんてね」

 

 その時、妙に鼻につく声が耳に届いてきたんだ。見るとそこにはあのロイドが立っていた。女の子にはカッコつけたがりの男だけど、僕しかいないと見るや見下すように僕を見てきた。


「おやおや、君のような雑魚でもまだ生き残っていたとはね。とっくに失格になっていると思ったよ」


 小馬鹿にするようにロイドが言ってきた。本当にこいつは――


「――この試験が始まる前に会ってるだろう?」

「はは。そうだったかな? 僕の愛人たちのことは覚えているのだけどね」


 そう言ってロイドが銀色の髪をかきあげた。本当相変わらずいい性格しているよ。


「誰が愛人だよ。全員嫌がっているだろう」

「イヤよイヤよも好きのうちさ」


 ポジティブすぎるよね――呆れて仕方ないけど今はこんなところで口論している場合じゃない。


「悪いけどお前に構ってる暇はないんだ。それじゃあね」


 踵を返してロイドから離れようとした。だけどロイドはしつこく僕に話しかけてくる。


「まちたまえ――貴様が持っているその袋、まさか素材を採取出来たのかな?」

「……お前には関係ないだろう」

「その反応。なるほど――ま、貴様のような雑魚が集められる素材などたかが知れているだろうけど、これで正当な理由が出来た――な!」


 ロイドが声を張り上げ、かと思えば僕に向けて何かが飛んでくる音が聞こえた。


「水魔法・水守ノ盾!」


 振り向きざまに水魔法で盾を生み出した。ロイドから放たれていたのは火球だったが水の盾で防ぎきった。


 それにしてもこいつ――


「……水の盾で防御? そんな馬鹿な。一体どんなトリックを使ったんだ?」


 僕の魔法にロイドは納得できていないようだった。だけどそんなことをいちいち説明していられない。


「いきなり攻撃してきてどういうつもりだよ」

「はは。何だい? 君のおつむは試験のルールも覚えられないほど悪いのかい? 試験官が言っていただろう? この試験は素材の横取りが自由だと。そのルールに従って貴様を攻撃したまでさ。もっとも僕はここで貴様を完全に排除するつもりだけどね」


 そう言ってロイドが不敵な笑みを浮かべた。どうやらこいつは本気で僕を潰そうと考えているようだね。

 

 全くこんな時に――エクレア、スイムお願いだから無事でいてよね……。

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