第159話 いよいよ始まる試験
とにかく今はこの試験を合格する為に必死にやるだけだ。
「よしとりあえずお前ら俺たちについてこい」
シルバに促され僕たちはその後をついていった。平原に一旦出てそのまま歩き続ける。するとエクレアが隣について僕の手をとった。
「ネロ。ありがとうね。さっきは言い返してくれて」
「あ、いや、その仲間にあんなこと言われたら、と、当然というか……」
キュッと手を握られて全身の体温が一気に上がった気がした。しかもそんな照れ笑いみたいな顔で感謝されたら余計意識してしまうというか……って違う違う! 僕は何を考えて!
「コホン」
「あ!」
邪念を払うように首を左右に振っていると咳払いが聞こえて僕とフィアは弾かれたように離れた。すぐ後ろにいたのはフィアだった。
「今は試験中なんだからあまり過度な接触はどうかと私は思うなぁ」
「えっと……」
何かフィアからすごい威圧感を覚えて言葉を失ってしまった。エクレアも頬を掻いて苦笑してるよ~。
「よしここでストップだ」
するとシルバから足を止めるように指示が入った。
「うん。そうだね試験に集中しないと!」
「ケッ。女の尻に敷かれてんじゃねぇぞネロ」
これ幸いと皆にそう呼びかけるとガイが嫌味を飛ばしてきたよ。まったく本当にもう。それよりも気になるのはこれからの予定だ。
見るに目の前に広がっているのは森だ。しかも結構広そうなね。
「今からお前たちにはこの森で素材の収集を行ってもらう。この森にいる魔物を狩ってだ。合格か不合格かはその結果次第ってことさ」
シルバがそう説明してくれた。素材の収集……何か思ったよりも試験内容は普通で安心したよ。
いや、何かさっきまでのやり取りを見ていたらもっととんでもない試験が待ってるのかもとか思ったし。
「素材収集とはまたえらくシンプルだな」
ガイが試験内容の感想を口にした。ガイと同じことを思ったようだ。
「シルバ。大事なことを忘れてますよ。皆さんにはこのリストを持って森に入ってもらいます。素材収集が試験なのは確かですがここに書かれてる素材以外は受け付けませんのでそのつもりで」
「あぁ。そういえばそんなルールもあったな」
まったくもう、と腕組みするビスク。そこ結構重要なところだよね……。
「試験の肝になるところをいい忘れるなんて、大丈夫なのあの試験官?」
「あはは……」
「スピィ~……」
フィアが不安そうに呟きエクレアは苦笑いだ。スイムも呆れてそうに思えるよ。
「ははっ。どんな条件だろうとこれがただの素材集めなのは変わらないだろう? この程度名門カートス伯爵家が期待の星。このロイドからしてみたら余裕なのさ」
ロイドが髪を掻き上げて得意そうに言った。隣ではレイルが鼻を鳴らしている。
「あぁそうだな。確かに楽そうな試験だ。だけど集めるなら急いた方がいいかもな。何せ森の中には既にこちらの手配したCランク冒険者が素材集め中だ。あいつら優秀だからのんびりしていると根こそぎ取られちまうぞ」
シルバが新たな情報を口にすると周囲がざわめきだした。どうやら普通に素材を収集させて終わらせる気はないようだよ。
「へ、それを聞いて少しは楽しめそうな気がしてきたぜ」
ガイがニヤリと口角を吊り上げていたよ。優しい試験より手応えのある方がいいなんてガイらしいね。
「おい! この試験素材の集め方は自由か? 例えば奪ったり奪われたり……どうなんだ?」
その時、一人の大柄の冒険者が随分と物騒なことを発言した。周囲の空気がピリ付いた気がした。
「素材の集め方は自由だ。お前の望んでる答えを言うなら横取り上等ってことだ。なんなら既に森に入ってるCランク冒険者から奪ってもいいんだからな」
そう言ってシルバが笑った。これはますます油断できない試験になったね。簡単な試験だなんてとんでもなかった。
「それではこれより試験を始めてもらいます。ここにあるリストを持って森に入ってください。制限時間は三時間。制限時間の来る十分前にはこちらで合図を鳴らします」
三時間……結構長いようにも思えるけど内容が内容だけにあっという間に過ぎてしまう気もするよ。
「アイス! そこにいたのか試験が始まるさっさと合流しろ」
「……呼ばれたから行く」
「うん。お互い頑張ろうね」
険しい顔の男性に呼ばれアイスが僕たちから離れていった。どうやら仲間がいたようだね。
「お前、勝手にウロチョロするなよ」
「……うるさいアイに負けたくせに」
「な!」
えっと、仲間、なんだよね?
「ネロ。私達も頑張ろうね」
「スピィ!」
「うん。そうだね。とにかく森へ急ごう」
既に他の冒険者達も準備を終えてリストを片手に入っていってるからね。
「ネロここからはお互い敵だからな。忘れるなよ」
ガイもフィアとセレナを連れて森に入っていった。う~ん敵というのとはちょっと違う気がするけどとにかく頑張ろう!
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