第158話 ロイドに覚えられていたネロ

「うわぁ……そういえばあいつがいたんだったね……」

「はぁ。急に気が重くなってきたわ」


 ロイドの登場にエクレアとフィアがうんざりした顔を見せた。以前もいきなり愛人候補とかいい出してかなり面倒なことになったからね……。


「おい。何だこの馬鹿っぽいヤツは?」

「いけませんよガイ。あれでも一応は伯爵家のご子息なのですから」


 ガイがロイドを指さしてセレナに聞いていた。それに答えるセレナだけど、注意しているわりにセレナも結構言い方キツいね。前のこともあるから仕方ないかもだけど。


 でも、当然ガイは知らないんだよね。ロイドとはノーランドの町であったのだけどその時にはガイは実家に帰っていて一緒じゃなかったからね。


「フフッ。セレナといったね。君のことも当然覚えてるよ。安心したまえ君だって僕の大事な愛人候補の一人だ」


 そう言ってロイドがセレナに向けてバラを投げてきた。どこから出したんだろうあれ。そしてそのバラはセレナに届く前にガイによって叩き落された。


「……何だね君は?」

「それはこっちの台詞だ。俺の仲間にきやすくバラなんてなげんじゃねぇよ」

「ガイ……」


 セレナが口元を押さえてガイの背中を見ていた。目が潤んでるし余程ロイドの行為が嫌だったのかも。


「ふん。全くどこの馬の骨ともわからない分際で生意気な。君もそう思うだろう?」

「気安く話しかけるな。凍すぞ!」

 

 ロイドはアイスにもあのノリで話しかけていたけど、彼女は氷のような冷たい視線で拒否感を示していた。僕に対するのと同じ様に言葉もキツいし。


「あぁ! いいねぇ君のその瞳! そういうのも実にいい!」

「うわぁ……」

「スピィ……」


 両肩を押さえて妙なことを口走るロイドに女性陣はドン引きだよ。フィアは勿論スイムも思わず声が出てたし。


「おいロイドいい加減にしろ。全くお前はいつも好き勝手動きすぎだ」


 ロイドを怒鳴りつける声が聞こえてきた。やってきたのはレイル・カートス。ロイドの兄だ。


「はは。そこに美しい女性がいたら顔を見せないと失礼というものじゃないか兄さん」

「だから節操のない真似はやめろと言ってるだろう。たく……うん?」


 呆れ顔を見せるレイル。するとその視線がエクレアに向けられた。


「お前はガラン工房にいた女だな。身の程知らずにも俺を差し置いて装備品を作らせた生意気な女だ」

「あはは、嫌だな兄さん。可愛らしい女の子じゃないか。僕の愛人候補にピッタリだ」

「バカいうな。相手は選べと言っただろう。女のくせに鉄槌を振り回す野蛮な女を相手するぐらいならまだゴリラの方がマシというもの」

「ちょっとあんた。エクレアに向けて」

「取り消してもらえませんか?」

「うん?」


 フィアが怒りをあらわにしていたけどそれは僕も一緒だ。エクレアは大切な僕の仲間だ。それなのに――


「エクレアは仲間思いでとても優しい女の子ですよ。野蛮なんてとんでもない。何も知らないくせに勝手なことを言わないでもらえますか?」

「スピィ! スピィ!」

  

 僕の肩の上でスイムも怒っていた。こんな言われ方をしたら当然だろう。


「……貴様、誰に口を聞いているのか――」

「はい。ちゅうもーーーーく!」


 レイルが僕を睨み返してきたところで試験官の声が辺りに響いた。試験官のシルバが手をパンパンッと叩いて皆に注目を集めている。皆も何事かと思って視線をシルバに向けていた。


「これより試験を再開させるからね。全くビスクが細かいことにうるさいからちょっと時間が押してるんだよね。だからこっからチャッチャと行くよ」

「誰もせいだと思ってるんですか誰の!」

 

 シルバの隣でビスクが怒鳴っていた。何かビスクは大変そうだね。それにしても結局レイルの謝罪は聞けなかったな。


「全く兄さんにも困ったものだよ。女の子相手にあんな言い方はないさ。だけど、僕を差し置いてあの発言。お前やっぱり気に食わないよ」


 隣に立って声を掛けてきたのはロイドだった。それにしてもレイルに対してその程度の言葉しかないんだね。


 そして何故かロイドは僕の言動が気に入らないらしい。


「なぁ、約束覚えてるだろうね? 試験に落ちたらあの子らの前から、いや僕の前から消えろよ」


 するとロイドがそんなことを耳打ちしてきた。やっぱりあのこと覚えていたんだ。だけど、結局こいつもレイルの発言を謝ろうとしていない。本質的には一緒ということか……。

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