第155話 ガイが失格!?

「くそ――これで終わりかよ」


 ガイが肩を落として呟いた。あの顔。ガイはこれで試験脱落だと思っているんだ。


 うぅ、確かにガイはシルバに負けたけど、まさかこんなところで失格になるなんて思いたくない――


「……なぁ。不合格は俺だけなんだろう? パーティーの仲間は勘弁してやってくれ。お前らも後は頑張れよ」

「ちょ、ガイ何を言ってるの!」


 ガイがシルバに向かって頭を下げていた。それを見たセレナが慌てて止めに入る。


「セレナ……仕方ねぇんだよ糞が! 俺の実力が足りなかったんだからな」


 ガイとセレナの様子を見ながらフィアは黙っていた。その気持ちは僕もわかる。僕たちと戦った冒険者は不合格だし、ガイだから関係ないとは言えない……ただ気になることもあるにはあったんだけど――


「つまり不合格はお前だけにしろって? それは無理な相談だなぁ」

 

 ガイとセレナのやり取りを聞いていたシルバがあっけらかんと答えた。何かこんな状況でも飄々として掴みどころのない試験官だと思う。


「ふざっけんじゃねーぞ! 俺は負けても仲間は関係ねぇだろ!!」


 ガイが叫んだ。これに関しては僕も同意見だよ。試験官のシルバと戦ったのはガイだけだったわけだし――


「ははっ、だから勝手に不合格なんて決めるなってことさ。別に俺はお前を不合格にするつもりなんてないし」

「……は?」


 シルバの答えにガイが目を丸くさせた。どうにもこの人の言葉は本心が見えなくてよくわからないところがあるよね。


「まぁ、とりあえず全員合格だってことだ。良かったな」

「ちょ、ちょっと待てよ。俺はお前に負けたのにそれでいいのかよ?」

「いいも何もな。俺はお前とちょっと遊んでやると言っただけだ。誰も試験の一環だなんて言ってないだろう?」

 

 そういえばそうだ……。あの時は試験官であるシルバ自身が戦うと言っていただけで、それがそのまま試験になるとは一言も言っていない。


「くっ、ふ、ふざけんな! そんなお情けで生かされてこっちは全然嬉しくねぇんだよ!」

「あん? アホかテメェは。大体俺の足下にも及ばない分際でお情け語るなんざ十年早いんだよ」

「なんだと!?」

「……はぁ全く」


 ガイは折角不合格にならずに済んだのに、妙に意地はっちゃってセレナも頭を抱えていたよ。


「いい加減にしなさい!」

 

 ふとそこに女性の怒声が割り込んだ。


「全くさっきから勝手なことばかりやって! ガイといったわね。貴方もこれ以上ごねてないでさっさと試験に戻りなさい!」


 声を上げたのはもう一人の試験官ビスクだった。その周囲では彼女が使役している獣たちが欠伸をかいている。


「うぐっ……」


 ビスクに注意されガイは言葉に詰まっていたけど、それでもまだ納得していない様子でこちらを見つめていた。


「はは、良かったねガイ。試験が続けられるんだし」

「そうよ。それなのに文句ばかり言って本当あんたバッカじゃないの! セレナ泣かせてるんじゃないわよ!」

「いえ、別に泣いてはいませんが……」


 困ったような顔をしながらフィアの言葉をセレナが否定した。


「何はともあれ、皆で試験続けられそうで良かったね。ネロ」

「スピィ~♪」


 僕の隣についたエクレアが笑顔を見せた。肩の上ではスイムが嬉しそうにプルプル震えている。うん、可愛い。それにしても……。


 改めて見ると、ビスクの周囲にいる動物たちはみんなレベルが高い気がする。やっぱり彼女も試験官だけあってただものじゃないようだね。


「ふぅ。私はシルバともう少し話したいので皆はちょっと休んでてください」


 だけど――仕事は大変そうだよ。特にシルバには頭を悩ませてそうだしね。


「はははは。なんだか君たち面白いよね」

 

 ビスクとシルバの話が終わるまで少しの休憩を取ることになったのだけど、そこで僕たちに声を掛けてきた冒険者がいた。いや、冒険者で合ってるんだよね?


 ここにいるってことは僕たちと同じでC級冒険者試験を受けに来たんだろうけど何か変わってるというか、彼らは四人組で全員が仮面をつけていたんだ。


 しかもそれぞれ顔の左半分だけの仮面、右半分だけの仮面、下半分だけの仮面、上半分だけの仮面といった具合に違う種類の物をつけていてすごく奇抜だった。


 そんな変な仮面をしているから最初は冒険者には見えなかった。でも彼らの装備を見るとどうやらちゃんとした冒険者のようでもある。


 う~ん一見変わった冒険者たちだけどなんで僕に声を掛けてきたんだろう――

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