第149話 どちらかは選べない

「そうだ! エクレアはあのカラスを追って! 僕は悲鳴の場所に言ってみるから!」

 

 そうだ。どちらかなんて選ぼうとしたのが間違いなんだ。僕たちはパーティーなんだから両方やればいい!


「ネロ、でも」

「大丈夫。絶対に追いつくから!」

「――うん。わかった!」


 そしてエクレアがカラスを追いかけていった。するとスイムもエクレアの後についていく。


「スイム?」

「スピィ!」


 僕が呼びかけるとスイムが振り返りそして地面に何かを残していった。あれは水? そうか! それを道しるべにってことだね。


「わかったよありがとうスイム!」

「スピィ~」


 返事してスイムがピョンピョンっとエクレアの後についていった。


 そして僕は悲鳴の場所に急ぐ。


「いや、やめて!」

「うるせぇ! 大人しくしろ!」

「黙ってれば痛い目を見ずにすむんだからよ」


 悲鳴が聞こえた場所では一人の女性が二人の男に襲われていた。


 屈強な男で一人は長剣。もう一人はナイフを所持している。


「やめろ! その人からはなれろ!」

「あん? 何だこのガキは?」

「さては冒険者か!」


 二人の暴漢に向けて叫ぶと気づいた男たちがこっちに気が付き武器を構えて近づいてきた。


 どうやら冒険者だって気が付いたみたいだけど……そして襲われていた女の子は後ろで不安そうな顔をしている。


「俺たち二人相手に本当に何とかなると思ってるのか? 逃げるなら今のうちだぞ」

「悪いけど、こんな現場を見て黙ってられないよ」

「だったらわからせてやるよ!」


 ナイフ使いが投擲してきた。投げナイフか。


「水魔法・水守ノ盾!」


 魔法で盾を幾つか出しナイフを防いだ。


「は? 水魔法だと。そんなもので俺の魔法を?」


 ナイフの使い手が驚きのけぞった。水魔法は知らない人が見るとやっぱりこんな反応なんだ。


「武芸・強化剣戟!」


 すると剣を持った男が武芸を行使。筋肉が盛り上がった気がする。そこから距離を詰めて長剣を振るった。


 水の盾で防いだけど一撃で盾が飛び散った。強化されてるから威力が高い。


「武芸・旋風剣!」

「水魔法・水球!」


 回転しながら重たい一撃を放ってくるこの武芸は盾で防ぎきるのは厳しい。だから別の魔法を行使した。本来攻撃に使える魔法だけど水球は壁にもなる。


「馬鹿な!」


 剣が触れた瞬間弾けて剣士も吹っ飛んだ。や、やりすぎたかな?


「武芸・連投!」

 

 今度はナイフを持った男が連続で投擲してきた。数が多いけど――


「水魔法・水槍連破!」


 水の槍を連射した。ナイフの連射に対抗してだ。水の槍がナイフを弾きながら男に向かう。


「チッ!」

「今だ! 水魔法・水泡牢!」


 男が僕の槍を避けたのを認め魔法を行使。これで男が泡の中に閉じ込められた。


「な、なんだこりゃ! 出れねぇぞ!」

「悪いけど暫くそこで閉じ込められててね」


 泡を叩いて出ようとしてるけどそこはそう簡単には出れないよ。


 さて、僕は襲われていた女性に話を聞こうと近づいた。


「あ、ありがとう助かりました――火魔法・火弓!」


 女性は僕にお礼をいいつつ、魔法を行使した。出現した火の弓を構え僕を狙ってくる。


「これって……」

「悪いね。これも仕事なのさ」

「仕事――つまり試験官ということですよね?」


 僕がそう問いかけると女性が目を丸くさせた。


「――何でそう思ったのかい?」

「最初にそこの人が僕を冒険者と判断した時点でおかしいなって。僕は見た目には魔法士だけど、だからといって冒険者とは限らないですよね?」


 魔法士は必ずしも冒険者として行動しているわけじゃない。研究に専念するのもいるし魔導具の作成で生計を立てているのもいたり領主の元で専属魔法士として活動している人もいるからね。


 だから、ただの暴漢が僕の姿を見てすぐに冒険者と判断するのはおかしい。だけど試験に関わってる人なら話は別だ。


「それと貴方を襲っていたのに僕が来たからってすぐに二人とも離れてましたからね。普通は逃げないように一人は貴方の側から離れないはずと思うし、つまり僕を試す目的が強いと思ったんだ」

「プッ、あはは。そうかいそうかい。中々やるね。そうさ私たちは受験者を試すための試験官」

「あぁくそ。わかってたならもう少し加減してくれや」

「俺も出してくれ」


 剣士が頭を擦りながら戻ってきた。よかったそんなに怪我はしてないようだね。ナイフ使いの牢も消した。


「えっと、それで僕はもういいのかな?」

「あぁ、そうだね。というより急いで行った方がいいと思うよ。早くしないとあのカラスも見失うだろうからね」

「それなら大丈夫です! 仲間がいますから! それではありがとうございました!」

 

 僕は試験官に別れを告げてその場を離れた。そしてスイムの残してくれた水の跡を追いかけ先を急いだんだ――

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