第145話 騎士に声を掛けられました
「そもそも何の役にも立たないどころか被害だけ増やしておいて堂々と街をうろつくその姿が腹立つんだよ! フンッ!」
そんな捨て台詞を吐いて女性は建物の中に引っ込んでいった。それを聞いて僕は何とも言えない気持ちになった。
「これが……ガイの言っていたことなんだね」
「――スピィ~……」
思わず肩を落としてしまった僕の顔をスイムが撫でてくれた。心配してくれてるんだね。
「ネロ――気にすることないよ! 勿論中には誤解している人もいるのかもしれないけどネロのおかげで街は救われたんだし」
エクレアが僕を励ましてくれた。気持ちが落ち込み掛けたけどエクレアの笑顔のおかげで僕の心も暖かくなった。
あれだけの事があったんだ。中には冒険者にいい感情を抱いていない人もいるよね。それを払拭する為には行動で示すしか無い。
そのためにも、やっぱりCランク試験に合格してより多くの仕事を受けられるようになりたい。
とにかくずっと暗い顔していてもみんなを心配させちゃうし何とか気持ちを落ち着かせた。
「いこっか」
「うん」
「スピィ~」
改めて歩みを再開させる。エクレアと話して今日は素直に宿に戻って休もうという話になった。
「貴様ら待て!」
歩いているとなにやら声が掛かった。なんとも尖った声で嫌な予感がした。
振り返ると若い騎士が肩で息をしながらこっちを睨んできていた。
「えっと貴方は?」
「僕は王国騎士団所属! 期待の新星バエルだ!」
へ? き、期待の新星って自分で言っちゃうものなんだね。
「ふ~ん。で、そのバエルが私達に何か用ですか?」
「スピィ~……」
エクレアが彼に問いかける。けど、あまり良い印象を持ってなさそうだね。スイムも怪訝そうだし。
「冒険者ギルドに所属している無能な水使いっていうのは貴様だろう! 紋章を見ればわかる!」
手の紋章を見られたのか。それにしても藪から棒にいきなり無能扱いとか失礼な騎士だよね。
「いきなり何? ちょっと失礼じゃない」
エクレアも僕と同じことを思ったようだ。やってきたバエルに文句を言った。
「黙れ。おい! どんな手を使ったか知らんが貴様らがあの黒い紋章使いを倒したんだろう!」
前のめりにバエルが聞いてきた。黒い紋章使い……まさにこの街で暴れたあの三人の事だろう。
「みんなの協力があったからこそだけど確かに黒の紋章使いは倒しました」
「だったら奴らがどこに逃げたか教えろ!」
「えぇ~……」
「スピィ……」
突然何を言い出すのだろうこの人は。確かにあの三人が逃げたという話は聞いたけどそれでどうして僕たちが逃げた場所を知っていると思ったのかが謎すぎるよ。
「知りませんよ」
「嘘つけ! お前たちが手柄を独り占めするためにどこかに匿ってるんだろう!」
「あの……それをして冒険者ギルドに何の利があるのですか?」
はぁ、とため息を付いた後、エクレアが聞いた。確かにそんなことしても信頼を損ねるだけだしね。
「だからそうやって我ら騎士の信用を落として冒険者の株をあげようって魂胆だろう!」
「冒険者ギルドはわざわざそんなことをするほど暇ではないと思うしそもそも隠す意味は無いんじゃないかな……」
「そうね。だったら捕まえて公表した方が評判は上がるわけだし」
「スピィ」
僕とエクレアの回答にスイムもこくこくと頷いていた。
「ぐっ、だ、黙れ! 隠し立てするとただでは済まないぞ!」
「そんなことしませんよ」
僕が答えるとバエルが髪を掻きむしってぶつぶつと呟いていた。相当イライラしているみたいだ。
「とにかく僕たちは何もしらないので」
「くっ、このままじゃ僕の立場が……だっ、だったら見つけたらすぐに僕に教えろよ! いいな!」
そんなことを言いのけた後、バエルという騎士がどっかに行ってしまった。それにしても随分とカリカリしていたね。随分と焦っているようだし――
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