第141話 試験を望む少女

「えっとね。Cランク試験は色々経験が求められるから貴方にはまだ厳しいかな」


 とある冒険者ギルドにて受付嬢が一人の少女に説明していた。


 少女はアイス・ブリザールを名乗り今さっきギルドに登録したばかりであった。


 当然その場合ランクは一番下のFから始まる。そこから経験を積み地道にワンランクずつ階級を上げていくのが普通だ。


 だがアイスは冒険者についての説明を聞き何か質問はありますか? という受付嬢の質問にCランク試験を受けたいと答えた。


 それもいずれの話ではなく今すぐというものだったのだ。


「……何故難しい?」


 受付嬢から昇格試験に挑戦するのは厳しいと説明されるもアイスは納得していないようで不服げに聞き返していた。


「Cランクはね相当な経験がないと難しいの。色々と実績が必要になるし」

「……実績は狩った獲物で判断してくれると聞いた」


 説明する受付嬢にアイスが反論する。しれに受付嬢は困った顔を見せた。


「確かにそれも一つの要素ではあるけどね。Cランク試験に挑戦できる程度の獲物はそう簡単には――」

「お、おい! 表にとんでもねぇのがおかれてるぞ!」

「これAランク魔獣のヘレスウォーだろう?」

「もう息してないようだが一体誰がこれを……」

「しかも氷漬けだぜ」


 受付嬢が話している途中で外からそんな騒がしい声が聞こえてきた。受付嬢も表を気にし始めている。


「何かあったみたいね。ちょっと様子を見てくるから待っていて貰ってもいい?」

「……一緒にいく」

「え? あ、そうね。それなら見ておくといいわ」


 受付嬢は考えたのだろう。冒険者たちが騒ぐぐらいのAランクの魔獣を目にすれば自分がどれだけ無謀なことを言っているのかわかるものだろうと。


 受付嬢はアイスと一緒に外に出た。すると壁際に置かれた魔獣の死体に受付嬢も目を白黒させる。


 聞こえては来ていたが魔獣は氷漬けにされていて息はない。


「凄いわね。こんな強力な魔獣を倒すなんて。でもうちのギルドにそんな腕の立つ冒険者いたかしら」

「……これぐらいの魔獣だとどう?」


 灰色の毛をした巨大な魔獣ヘレスウォーを見ながら受付嬢が独りごちた。するとアイスが魔獣を指差しながら受付嬢に聞いてくる。


 最初受付嬢もその意味が理解できなかったようだ。


「えっとこれぐらいって?」

「……この魔獣は私が狩って持ってきた獲物。Aランクの魔獣ならDより上。これで試験受けられるか?」

「は? はぁあぁああぁああ!?」


 受付嬢が素っ頓狂な声を上げた。


「ちょっとこれ貴方がやったというの?」

「……そう」


 コクリとアイスがうなずいた。受付嬢は信じられない物を見るような目を少女に向けている。


「あのね嘘や偽りは罰則対象よ。さっきも説明したと思うけど」

「……嘘は言ってない私がやった」

「面白い冗談だな」


 受付嬢とアイスのやり取りに低い男の声が割って入った。


「貴方、ザックス」

「よぉ。あんたも大変だなこんな嘘つきを相手して」


 受付嬢だけあって流石に彼女は彼を知っていたようだ。名前を呼ばれたザックスは受付嬢を労いつづアイスに目を向ける。


「俺はDランク冒険者のザックスだ。お前この魔獣を倒したと言っていたが、それで行くとお前はこの俺より強いことになる吹かしじゃなければだけどな」


 鋭い目つきでアイスに語りかける。見るにどうやらアイスが狩ったという発言を信じていないようだ。


「……見ればわかる。お前よりは私の方がはるかに強い。正直相手にならない」


 アイスがあっさりと返答する。ザックスの眉がピクピクと反応した。


「おもしれぇだったら勝負するか?」

「ちょっとザックス!」

「口出しは無用だぜ。それにこいつが吹かしかどうか調べる必要はあるだろう」

「……こっちは問題ない」


 アイスが答えるとザックスは鼻を鳴らし。


「よし。だったら下の訓練場に向かうぞ。そこで」

「……必要ない」


 ザックスがそうアイスを促すが、アイスはザックスの話など聞かず右手を翳し、その瞬間ザックスの全身がピキィイィインと凍てついたのだった――。

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