第140話 マイト家とアクシス家の思惑
「ガイ――許さん。絶対に許さんぞ!」
グランはブツブツと呟きながら地下へと続く階段を降りていた。
この地下室へと続く道は殆どの使用人に知らされていない隠された通路であった。勿論息子であるガイにもだ。
階段を降りた先には小窓の付いた分厚い鋼鉄の扉があった。扉に紋章を重ねるとそれが鍵代わりとなっているのか扉が開いた。
中に足を踏み入れる。壁に掛けられた蝋燭の淡い光だけが部屋の中を照らしていた。
かび臭く薄暗い部屋にはベッドと机ぐらいしか置かれていない。明かりも殆ど入らない部屋でありそこには手枷足枷の嵌められた男がいた。
ベッドの上に腰掛けておりグランが入ってきたのを知り淀みきった瞳を向ける。
「わざわざあんたが来るなんて一体どういう風の吹き回しだ?」
暗い声で男が問いかけた。グランは、フンッ、と鼻を鳴らし、そして彼に告げる。
「喜べギル。もうすぐお前を外に出してやれるかもしれないぞ――」
◇◆◇
「――旦那様。グラン・マイト卿より封書が届いております」
封蝋のされた手紙を執事から受け取った人物がいた。砲金色の髪を有した男は厳かな表情を更に顰め開いた手紙に目を通していく。
「全く久しぶりに屋敷に戻ったかと思えば面倒な」
そう彼、ギレイル・アクシスが呟いた。ネロを追放した父でありアクシス侯爵家の当主、であると同時に王国の魔法師団を束ねる元帥でもある。
「しかしグランの奴め。どうやら息子の躾がなってないようだな。子が勇者の紋章を授かったからこそこれまで面倒を見てやったというのに」
厳しい目つきでギレイルが語ると執事がでは、と眼鏡を直し。
「こちらで片付けましょうか?」
そう問いかけた。
「……いや、手紙にはなにかまだ手があると記されている。これは使いようによっては面白いかもな。その為に協力を仰いでくるあたり中々強かではある――」
そこまで口にした後、ギレイルが執事に目を向ける。
「――ハイルトンの件はあれからどうなった?」
「はい。調査は現在も続けておりますがダンジョン内で死んだと見て間違いないかと思われます」
「やはりそうか。それを上手く利用できれば――とは言え、いい加減あの~
ため息まじりにギレイルが口にした後、更に続ける。
「しかも今度はCランクの昇給試験に挑むのだというのだ。これについてどう思う?」
「決してあってはならないことです。旦那様が無能と判断し追放したというのにCランクなど――旦那様の顔に泥を塗るような真似、許されるわけがありません」
ギレイルに問われ執事が答えた。普通に考えたなら無茶苦茶な理論だが彼らの間ではそれが当然のようである。
「そのとおりだ。この私が無能と判断したのだ。であれば無能は無能らしく惨めに死んでいくべきなのだ」
苦虫を噛み潰したかのような顔でギレイルが言った。
「にも関わらず我が家から追放した無能な屑がCランク冒険者などになられてはまるで私の見る目がなかったかのようではないか――」
そこまで口にしギレイルが思案顔を見せる。
「試験にはまだ時間があったな。それならば今からあの娘を昇格試験にねじ込むのだ。あやつであれば今からでも十分に間に合うだろう」
そう言ったギレイルの口角が僅かに吊り上がった。
「承知いたしました。それではすぐにでも手配致しましょう」
「頼んだぞ。ついでにこうも伝えておけ試験中に隙があればゴミを片付けておけ、とな」
「御衣――」
こうしてマイト家、そしてアクシス家においても試験に向けて不穏な動きがみられたわけだが――
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