第136話 ガラン工房への来客
「はぁ~凄いです。これが一流の職人が働くガラン工房。一つ一つ丁重に焼き打ちそして形作る。そこから生まれる至高の芸術品の数々!」
ガラン工房に入りセレナは目を輝かせ、祈るようなポーズで感慨深そうに声を上げた。
その様子に何人かの職人の視線が向けられ奇異な目を向けていた。見た目には神官を思わせる衣装だけあってなぜ教会の人間がここに? という疑問も思ったのかもしれない。
「やれやら変わった嬢ちゃんだな。こんなむさ苦しい仕事場、女が見ても面白くもないだろうに」
「何を言ってるのですか! 最高ですよ! 本当にご馳走様です!」
「あはは――」
セレナの興奮ぶりにはエクレアも若干ついていけていない様子であった。
「武器を作るのはお前だからな。先ずはその鉄槌見せてみろ」
「あ、はい」
セレナは工房を見るのに夢中なようなのでエクレアが一人親方のガランと話す事となった。
言われた通り鉄槌をガランに手渡す。
「ふむ――なるほど。かなり使い込まれているが手入れは行き届いているな」
エクレアから受け取った鉄槌をマジマジと見つつガランが感想を口にした。
褒められたように感じたのかエクレアも安堵の表情を浮かべる。
「素材もあるんだろう?」
「はい。これを――」
エクレアは雷の魔石を手渡した。ガランの目が見開かれる。
「これは随分といい魔石だな。素材としては一級品だ」
「本当ですか? 良かったぁ」
素材も評価され胸をなでおろすエクレアであり。
「それで、その鉄槌の代わりになる新しい武器が欲しいのか?」
ガランがエクレアに問いかけた。だがエクレアは首を左右に振り答える。
「いえ。新しい武器ではなく今使ってる鉄槌を改良して貰えると嬉しいのだけど……」
「ほう――」
エクレアの願いを耳にしガランの目つきが変わった。声の感じといいどことなく感心したように見える。
「最近の連中はすぐに新しい武器が欲しいだの何だの言って折角の装備を使いこなす前にやってくるのも多かった。そんな連中にうんざりしたもんだがな」
それを聞いてエクレアも苦笑する。
「仲間の影響もあったかもしれません」
「仲間?」
「はい。今ワンさんに杖をお願いしていてネロというのですが」
「――手紙にも少し書いてあったな」
「はい! そのネロもこれまで使っていた杖をベースに改良して欲しいってお願いしていたんです。私もきっとネロに感化されたんですね」
「……そうか。いい仲間を持ったな」
「は、はい! ありがとうございます!」
エクレアは思わずお礼を言っていた。仲間のネロが評価されたことが嬉しかったのだろう。
「それでその装備品についてなんですが」
「あぁ。そうだな――その為には」
「ここがあのガラン工房か。フンッ、随分と古臭い設備だな」
エクレアとガランが話しているとどこか傲慢にも感じられる声が耳に届いた。
「この声って……」
エクレアの耳がピクッと跳ね顔が声の主に向いた。そこにいたのはレイル・カートス――あのロイドの兄だ。
「それで鍛冶師のガランというのはどこにいるんだ?」
「俺だが、一体誰だ?」
「あんたか。うん?」
レイルがガランに顔を向けた後、すぐさま視線がエクレアにも向けられ何かに気がついたように眉を顰めた。
「チッなんてその女がここに」
「何だ知り合いなのか?」
「え、えぇちょっとだけ……」
愚痴をこぼすレイルを見てガランがエクレアに問いかけた。しかしエクレアの芳しくない様子から察したようにレイルに声をかけるが。
「うちは紹介状がないと依頼はうけねぇんだが持ってるのか?」
「はは、そんなもの必要ない。私はレイル・カートス。カートス伯爵家の長男だ。そこまで言えばもう十分だろう?」
ガランの問いかけにそう自身に満ちた顔で答えるレイルなのであった――
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