第137話 紹介状もないのに
「知るかそんなもん」
「な!?」
随分と自信満々に家名を晒したレイルだがガランには通用しなかったようだ。
あっさりと突っぱねられ悔しそうに歯ぎしりするレイル。その様子にエクレアが思わず吹き出していた。
「それよりも紹介状がないのにどうやって入ってきた?」
訝しげな目でガランが問いかけた。
「ハハッ。そんなもの外にいた奴が私の名前を聞くなりすんなり通してくれたぞ」
「何?」
レイルが堂々と言い放つがガランの表情は険しい。
「どういうことだ。おいノックいるか!」
「ここにいます親方!」
ガランが大声でノックを呼びつけた。するとノックがダッシュで姿を見せた。
ガランは明らかに不機嫌だったがノックは何故か誇らしげだった。
「どういうつもりだノック! 紹介状も無い相手をいれやがって!」
「それが聞いてください親方。この方はあのカートス伯爵家からわざわざ来てくれたそうなんですよ。これでこのガラン工房も益々発展しますよ!」
「馬鹿野郎!」
ガランがノックを怒鳴りつけた。ノックの肩がビクンッと震える。
「うちは紹介状ありきでこれまでやってきたんだ。相手が誰だろうとそこを曲げていいわけねぇだろうが!」
「で、でも親方。そんな女の仕事を受けておいてカートス伯爵家の仕事を受けないなんてそれこそわけがわかりませんよ」
ガランに叱咤されるもノックが反論した。どうやらノックはワンの紹介で仕事を受けてもらえそうなエクレアが気に入らなかったようだ。
「ちょっと待て。それは私も聞き捨てならないぞ。なぜそんな下品な女の仕事を受けて私の仕事を受けない。カートス家を馬鹿にしているのか!」
エクレアは正式に紹介状を貰ってやってきているわけだがどうやらレイルもそれが気に入らないようだ。
「この嬢ちゃんはワンから紹介状を貰ってやってきてるんだよ。あんたとは違う」
「ワンだと?」
ガランの答えにレイルの眉がピクリと反応した。
「とは言えうちのもんが勝手に紹介状もないあんたを通したのは確かだ。それについては悪かった」
ガランがレイルに頭を下げた。その様子にエクレアは戸惑いを覚えている様子だった。
同時に彼女に対して随分な物言いをしたレイルに嫌悪感を抱いているようでもある。
「そうかわかったならいい。ならばさっさとその女を追い出して私の仕事を受ける準備を始めるといいだろう」
「はい?」
エクレアが目を丸くさせた。わけがわからないちった様子だ。何故今の流れでそういう話になるのか。
「……お前の仕事は受けない。謝ったのはあくまでノックが間違えて通したからだ。それと今も言ったが嬢ちゃんは紹介状を持ってきた。だから話を聞くんだ」
「ふざけるな! いいかその女はうちの弟に色目を使って取り入ろうとするような恥知らずな女だ。そんな奴と私が比べられるのも不愉快なのだぞ!」
「ちょっと! いい加減にしてよ。私は貴方の弟に色目なんて使ってないわよ!」
流石に黙ってはいられないとエクレアが反論した。
そんな彼女をレイルは見下した。
「大体今、お前はワンの紹介状を持ってきたと言っていたが、そいつは今じゃただの呑んだくれの杖職人だろう? だったらそんな物に意味はない。今頃弟が店を買い取ってる筈だからな」
腕を組み堂々とレイルが言い放つ。その様子にエクレアが嘆息した。
「言っておくけどワンさんの店は買われてないからね。今もネロの杖を作るために頭を悩ませてくれてるんだから」
「……何を言ってる。弟は欲しいものは強引でも手に入れる奴だ。正直そんな店買うだけ無駄だとは思ったがあいつがそう決めたなら覆ることはない」
「そんなこと良く堂々と言えたな」
悪びれもなく語るレイルにガランが呆れ顔を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます