第135話 ガラン工房再び

「今度こそ装備品作ってもらえるといいんだけどね」

「大丈夫ですよ。今回はワンさんからの手紙もあるのですから」


 エクレアはワンの店を出た後セレナと一緒に再びガラン工房にやってきていた。前回は門前払いを食らったがセレナの言うように今回は紹介状となるワンの手紙がある。


「うん? 何だお前ら。確か前にも来ていたよな」


 ガラン工房までつくと扉の前に以前エクレアたちを追い払った青年がいた。どうやら二人の事を覚えていたようであからさまに嫌そうな顔を見せる。


「はい。また来ました」

「たく。懲りない連中だ。前も言っただろうが。ここは一見さんお断りだ。冷やかしなら他の店にいきな」


 エクレアが答えるも青年は犬でも追い払うように手を降り相手にしようともしなかった。


「冷やかしなんかじゃありません。それに今回は手紙を預かって来てます」


 エクレアはできるだけ丁重な口調を努めつつ青年に手紙を渡した。じろりと青年が手紙に目を向けた後、エクレアの手から受け取り封から無造作に中身を取り出した。


「あの、それはガラン様に宛てられた手紙なんですが」


 セレナが眉を顰め指摘した。ワンは確かにガランに向けて書いていたのでありそれならば手紙にも宛先が記されていた筈である。


「俺はここで客のチェックを任されてるんだよ。紹介状の中身を確認する役目がある」


 その答えにセレナは納得が言ってなかったようだがエクレアは仕方ないよと青年の判断を待った。


「ふん。ワンだって? すっかり飲んだくれの落ちぶれジジィだろこれ? こんなものが紹介状になるかよ」


 鼻で笑い青年はなんとその場でワンの手紙を破り捨ててしまった。これにはエクレアも驚きを隠せない。


「なんてことをするの!」

「うっせぇよ。どうせ酒に酔っ払った耄碌ジジィに言い寄って適当に書かせたもんだろうが。そんな物に何の価値がある?」


 思わず怒りのこもった声を上げるエクレアだが、青年は悪びれることもなく勝手な憶測で言い返してきた。これには二人も眉を顰め反論する。


「勝手に決めつけないで! ワンさんはそんな適当なことをする人じゃない!」

「そうです。だいたいそれ貴方の勝手な憶測ですよね?」

「黙れ! どっちにしろワンなんてもう終わった職人の手紙なんてな!」

「ワンがどうしたって?」

 

 ヒートアップする二人と青年だったが工房の扉が開き髭を生やした厳しい男が姿を見せた。


「お、親方!」

「え? 親方ってことはもしかしてこの方が?」

「ガラン工房を纏めるガラン様――」


 青年が驚き目を白黒させていた。その反応を見てエクレアとセレナも親方と呼ばれた男に目を向ける。


「たく、さっきから騒々しいから来てみりゃ――何だこれは?」


 するとガランの手が破り捨てられたワンからの手紙に伸びた。


「いや、これは関係ないんです! 親方がわざわざ目を通すものじゃありませんよ」

「そんなことありません! それはワンさんから預かってきた大事な手紙なんです」

 

 青年は取るに足らないものだとガランに伝えたがそこにエクレアが割り込み事実を伝えた。


 ガランの眉がピクリと反応する。


「この手紙がワンのもんだと? そうかそれでさっきから――」


 そしてガランがワンの手紙に目を向けた。半分に破られはしたがこれならまだ読むことは可能である。


「――ふむ。エクレアってのはお前か?」


 そしてガランの目がエクレアに向けられた。初対面ではあるが彼女が背負っていた鉄槌を見てどちらがエクレアか判断したのだろう。


「は、はいそうです。実は私の新しい装備品を作って頂きたくて」

「あぁ。ワンの手紙にもそう書いてるな。見どころがありそうだと一筆添えられてな」

「ワンさんそんなことまで……」


 エクレアが嬉しそうにはにかんだ。その顔を見てセレナも微笑む。


「それで今ワンはどうしてるんだ?」

「はい! 杖職人として動き出して今は新しい杖づくりを手掛けてくれています!」


 この質問にはセレナが答えた。ガランの姿が見れたのがよほど嬉しいのか目が輝いていた。


「杖は私とパーティーを組んでくれているネロの為に作成してもらうことになってるんです」

「ワンが? くくっ、そうかおやっさんがまた杖をか。ハハッこりゃいい」


 セレナとエクレアの話を聞きガランは頭に手を持っていき顎を上げ愉快そうに笑った。


「話はわかった。工房に上がってくれ。詳しく聞こう」

「ちょ、ちょっと待ってください親方! そんな飲んだくれの手紙なんざ信用するんですか!」

「――ノック。お前一体いつから俺に無断で仕事の選り好み出来る程偉くなったんだ?」

「ぐ、そ、それは……」


 エクレアたちを工房に上げることに納得の言っていない様子の青年ノックだったがガランに凄まれ言葉を失った。


「――お前とは後でじっくり話し合う必要がありそうだな」


 ガランはそう伝えるとノックは悔しそうに俯いていた。


「さて、うちの不手際で失礼な真似して悪かったな」

「いえ。わかってもらえればそれで」

「終わりよければ全て良しですね」

「……ところであんたは?」

「私はこの工房の大ファンです! エクレアと一緒に工房を見ることが出来て凄く光栄に思います! ガラン様にもお会いできて天にも昇る気持ちで――」


 それから怒涛のトークでどれだけ工房に憧れていたかを語るセレナに引き気味のガランであり。


「お、おうわかった。とにかくこっちだ」


 こうしてエクレアたちはガランに促され工房に入る事となったのだった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る