第133話 素材の価値
「全くとんでもない素材ばかり持ってきやがって」
僕たちの持ってきた素材を見つめながらワンは呆れたような感心したようなそんな顔で呟いた。
「素材としてはどうですか?」
「どうもくそもねぇ。この水の魔石一つでとんでもねぇ杖を拵えることが出来るってもんよ。世間じゃ水の魔石の価値は低いとされるがそれでもこれだけの魔石ならかなりの価値だろうよ」
ワンが教えてくれた。魔石は性質変更を施すことで属性を変えることも一応可能だけど、それをすると品質が低下する。
だから通常はあまりやられない。だけどこの品質なら水の魔石でも欲しいと思う人は多いということなんだろうね。
もっとも売るつもりはないけどね。僕にとっては何ものにも代え難い代物だし。
「たく、こんなすげぇもの見せられたら流石に気合い入れるしかねぇか」
「本当お爺ちゃん!」
話を聞いていたロットが嬉しそうに駆け寄った。ロットはずっとワンが再び杖を作る日を待っていたからね。
再び杖職人として動き出したワンの姿に喜びも一入だと思う。
「……心配掛けちまったな。ま、作ると言っても今後も仕事する相手は選ぶけどな。安売りはしねぇぜ」
「随分と自信があるのね。だったら私の杖も頼んで上げてもいいわよ」
「ふん。生意気な小娘だが、小僧と一緒にあの坑道に挑んだんだったな。その気概に免じて受けてやってもいいが素材はあるのか?」
「う、それは、ば、爆属性の魔石はなかったのよ」
フィアは罰が悪そうに答えた。あの廃坑は結局水の魔石以外には雷の魔石を貰ったぐらいだったしね。
「……ふん。情けねぇな。冒険者なら街を出て西に向かった先にある山でバクボアを狩るぐらいしてみたらどうだ?」
「うふふ。随分と詳しく教えてくれるのですね」
ワンがやれやれといった様子で口を開くとセレナがおかしそうに笑っていた。
今のはつまりそのバクボアを狩って見ろってことだよね。
「バクボアは体内に爆属性の魔石を有している可能性が高いんですよ。でもその分周囲を爆発させたりするので注意が必要なんです」
ワンの話をロットが補足してくれた。やっぱりそういう理由があったんだね。
「素直じゃないわね。でも……ありがとうと言っておくわ」
「フンッ!」
ワンが照れくさそうにそっぽを向いた。頑固なところはあるけどやっぱりいい人なんだよね。
「セレナは杖はいいの?」
「私は杖はまだ――ただローブはそろそろ」
フィアが聞くと袖を振り上げてセレナが答えた。よく見ると確かにローブも傷みが見えるね。
それを言うと僕もだけどね。フィアも気になりだしたみたいだしエクレアはローブではないけど胸当てをチェックしてるね。
「ま、全員何かしら必要だろう。この鱗もあるしな。ロット後でセンツに話を通しておいてくれ」
「うん! お爺ちゃんが杖をまた作るって聞いたらきっとセンツさんも喜ぶよ」
ロットが笑顔で答えた。その後僕たちにも説明してくれる。
「センツさんは町でも有名な仕立て屋さんなの。ローブならセンツさんに任せておけばバッチリだと思う」
「そうなんだね。でもこの鱗で足りるのかな?」
ケツアルカトルから鱗を何枚かもらったけどこれだけで全員分のローブを作れる量とは思えない。
「鱗は触媒として使える。これはかなり協力そうだからな。ローブには最適だろう」
触媒――魔力を込めることで様々な反応を見せる物体のことだね。
「本当にいろいろありがとうございます」
「ついでだ。こっちも店が掛かってるからな。でだ、残った雷の魔石は嬢ちゃんが使うんだろう。こっちは専門外だからな」
ワンがそう言って雷の魔石をエクレアに差し出した。確かにエクレアの武器は杖じゃないからね。
「う~ん確かにこれがあればいい武器が出来そうなんだけど――」
エクレアが苦笑気味に答えた。そうだ確かガラン工房でエクレアは店に入ることも出来なかったんだよね。
「実は一度ガラン工房に行ってみたんだけど一見さんお断りみたいで――」
「ガラン工房だと?」
エクレアに代わって僕が説明したのだけど、ワンがそれに反応を示した。あれ? 工房について何か知ってるのかな?
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