第131話 身勝手な条件
「いやいや全く良くないよ!」
「スピィ!」
慌てて僕はロイドの条件に異を唱えた。スイムも一緒になって飛び跳ねて抗議している。
全くどさくさ紛れに何を言い出すんだ。
「は? 何だい。やっぱりただの出来損ないか。僕との勝負に怖気づいたんだね」
髪を掻き上げながらロイドが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。本当に何を言ってるのかわからない。
大体そんな条件勝手に飲めるわけないじゃないか。
「あのね。そんな勝手に店や仲間を賭けたりなんて出来るわけないじじゃないか。僕の一存で決められることじゃない」
「スピッスピィ~」
そんなの当たり前のことだ。スイムも当然だと言わんばかりにうんうんと頷くような仕草を見せている。
「はは、何だそんなくだらない事を気にしていたのか」
「いやくだらないって……」
ロイドの言動にげんなりしてきた。
「いいかい? どうやらお前は気がついていないようだが美しいお嬢様たちは全員君に同情して一緒にいてくれてるんだ。恐らく君はそういった相手の同情心につけ込むのが上手いのだろうね」
「はい?」
ロイドの言動の一つ一つが僕の予想の斜め上をいていて頭が痛くなってきた。
「何言ってるのあいつ?」
「全く理解できないよ……」
「完全に一方通行な物の考え方ですね」
フィア、エクレア、セレナの三人も頭を抱えてそうだよ。
「呆れて物もいえん。ロットなんであんな奴につきまとわれてるんだ?」
「酒場で声を掛けられただけだったんだけど……」
嘆息して問いかけたワンにロットが答えた。そうか酒場で働いていたもんね。
「だけど彼女たちも気がついている筈さ。お前なんかと一緒にいても未来はないとね。だからこそこの賭けでお前が負けることで僕の胸に飛び込む理由が出来るのさ」
すごい自信だ。鼻が伸びてそうにみえるけど問題は伸びてる方向が明々後日すぎることだよ。
「僕の仲間は否定してるんだけど……」
「はは、照れ屋さんなのさ」
駄目だ何を言っても聞いてくれない。
「それってどっちにしてもこの店は関係ないよね」
眉を顰めつつエクレアが指摘する。確かに仲間を勝手に賭けの対象にされるのも心外だけどそれは店についても同じだし今の話とは関係しない。
「それは勿論ロットの為さ。彼女も本当はロクでもない父親を見捨てたいのに踏ん切りがつかない。だから僕が勝負に勝つことでこの胸に――」
最後まで聞くまでもない。言ってることは一緒だし。
「――というわけだ。この賭けは成立したってことでいいね?」
「何も良くないよ!」
なぜそういう結論になるのかさっぱりわからないよ。
「――おい、小僧の仲間のことはしらんしロットをやるつもりもないがこの店だけなら賭けに乗ってやってもいいぞ」
するとワンがロイドの挑戦を受けると口にした。驚きだよ!
「そんなワンさん」
「いいんだ坊主。これで坊主が合格できないような杖を作ったとあっちゃ杖職人の名折れ。大人しく引退してやる」
「ははは。言ったね。その言葉忘れないでくれよ」
ロイドが髪を掻き上げて嬉しそうに笑った。すると、フンッとワンが鼻息を荒くしてロイドを睨む。
「その代わり貴様が負けるようなことがあれば謝罪しろ。自分の見る目のなさと愚かさを噛み締めながらな」
ワンはロイドが負けたときの条件を口にした。それがまさかロイドの謝罪だったなんて……。
「ふふん。それぐらい構わないさ。逆立ちしたってそんなことはないけど、もし僕が負けたら謝罪だけでなく本来この店を買うために用意した五百万マリンもそのままくれてあげるよ」
こいつ……自分から条件を増やして本当に自尊心が高いね――
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