第129話 望んでなかった再会

「ワンさんどうかしましたか?」


 なんだか気になって店に入ると、そこにはワンと予想通り昨日酒場であったロイドがいたよ。


 そしてもうひとりワンの孫娘ロットの姿も

。だけどロットはどことなく困ったような顔をしている。


「おお! これはこれは昨晩の麗しき姫達じゃないか。そうかこの僕に会いたくなって探しに来たんだね」


 ロイドが随分と自分勝手な発言をした。僕がいるのに相変わらずロイドからは見えてないようだ。


「彼女たちは僕に付き合ってここまで来てくれたんだ。君に会うためじゃないよ」

「スピィ~!」


 僕が皆の間に入ってロイドに話した。自分的には結構強めな態度で出たつもりだ。


 肩に乗ってるスイムも近づくなーと威嚇してるように見える。


「――何だまたお前か。全くお前みたいな無能に彼女たちを幸せにできるわけないだろう。とっとと消え給え」


 他の皆に見せる顔とは違って僕に対して蔑んだような目を向けてきていた。


 正直こういうのは初めてじゃないけどね。それにロイドの目線は僕の手の甲にも向けられていた。


 そうなると無能と言われる理由は明白とも言えるね。


「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ。ネロは私達の大切な仲間だし無能なんかじゃないわ!」

「そうよ。昨日から聞いてればあんた何様のつもりよ」

「見ず知らずの相手に仲間を侮辱されるのは愉快ではありませんね」

「スピィ~!」

 

 エクレア、ファイ、セレナがロイドに反論した。肩の上ではスイムも不機嫌そうにしている。どれだけ僕のことを馬鹿にする相手がいてもこうやって僕のことを認めてくれる仲間がいるだけで僕はまだまだ頑張れるよ。


 スイムもついてきてくれてるしね。


「――やれやれ。お前は一体どんな口車で彼女たちを騙しているんだい? 無能でも口先だけは上手いってことか。虫酸が走るね」


 人差し指を突きつけまるで僕が詐欺師とでも言わんばかりの言い草だ。


「なんで僕が口だけだって思うのかな?」

「そんなもの紋章を見ればわかるさ。お前の手に刻まれてるの水の紋章。まさに無能の象徴じゃないか」


 返ってきた答えは予想通りの物だった。やはり水魔法というだけでそう思われるんだね。


「フンッ、そんなもんか。所詮イメージでしか物を語れない未熟モンが俺の店を買おうとはちゃんちゃらおかしい」


 ワンが呆れたような情けないとでも言いたそうな、そんな様子でロイドに言い放った。


「……随分な言い草じゃないか。大体ロクに仕事もしてないような呑んだくれに一体何がわかると?」

 

 ワンに反論するロイド。確かに僕が町に来た当初も酒場で呑んでいたっけ。だけど今は違う筈。


「たしかに最近までの俺はそのとおりだった。だけどな、その小僧を見て気が変わったのさ。おい! ここに戻ってきたってことは素材を持っていたんだろうな?」


 ワンが顔を僕に向けてきて聞いてきた。口調は乱暴だけど僕が素材を持ってきたに違いないと信じてくれているような気がした。


「は、はい! 勿論バッチリです!」

「と、いうわけだ。これで俺にも新しい仕事が出来た。店を売るわけにはいかなくなったな」


ワンが突き放すようにロイドに言った。それを聞いてロイドがやれやれと頭を振って見せる。


「そうです! お爺ちゃんは新しい杖を作ることになったんです。だから店も売らないし私も結婚なんて考えてません!」


 ロットも強い口調で自分の意思を伝えていた。どうやらロットに関してはロイドが勝手に結婚を迫っていただけで彼女にはそんな気が全くなさそうだね。


「……この無能に杖をねぇ。そんなことは無駄だからやめておいた方がいいと思うよ。水の紋章持ちに結果がだせるわけない」

「勝手に決めないで! ネロは私たちと今度のCランク試験に参加するのも決まってるんだからね」

「そうよ。だから無能なんかじゃない。あんたの勝手な妄想で決めつけないで!」


 エクレアとフィアがロイドに反発した。そう、今回杖の新調を決めたのも試験があったからだ。


「――へぇお前のような無能も・・・Cランク試験に受けるなんてね。一体どんな手を使ったんだ? 金でも握らせたのかな?」


 それはつまり僕が賄賂でも使ったと言いたいのかな。本当に失礼な男だと思う。


 だけど今、僕も試験にと言ったことが気になった。


「……もしかして貴方も試験に?」

「ハッハッハ。その通りさ」


 ロイドに問うと髪を掻き上げながら反応を示したね。


「そう僕も兄さんと一緒にCランク試験に参加するのが決まってるのさ」


 両手を広げ自慢げに語った。つまり試験はこの兄弟と一緒になるってことか。


「何よそれってつまり今は私たちと同じDランクってことよね? 偉そうに言っていたわりに同ランクじゃない」


 フィアが嘆息して言った。前もかなり自信満々な様子ではあったけどランクとしては一緒なんだ。


「はは、僕は結構満足だけどね。それに僕たちが所属しているギルドのマスターも言っていたよ。登録して一ヶ月足らずでCランク試験に推薦したのは僕たちが初めてだってね」

「え? 一ヶ月!?」


 エクレアが驚いていたけど、それもよくわかるよ。正直普通はDランクにだって一ヶ月程度でなれるものじゃないのに……ロイドの自信の表れはそこから来てるのかもしれない――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る