第128話 朝から予定を立てる
昨晩はあの後、すぐ宿に戻った。正直あの二人のおかげでせっかくの食事もいい気分で終われなかったのだけどね。
だけどそんなの引きずってもいられないし、気持ちを切り替えていかないと。
「おはようネロ」
「うん。おはようエクレア。疲れたは取れた?」
昨日は結構大変だったし朝は少しのんびり出ようということになった。やっぱりあれだけのことがあると疲れは出るだろうからね。
「うん! すっかり元気だよ」
「スピィ~♪」
エクレアが僕の肩に乗ってるスライムを撫でながら答えた。本当にいつも通り元気そうだね。本当タフな女の子だと思う。
「ネロ、エクレア、おはよう~」
「お腹が空きましたね」
フィアとセレナも準備が出来たみたいだね。部屋から出て挨拶してくれたよ。
「二人は体調どう?」
気になったから聞いてみた。一見平気そうに見えるけどどことなく疲れの色も見えるんだよね。
「う~ん少しだるさはあるけど大丈夫よ。今日はワンって偏屈爺さんに会うのがメインだろうしね」
「私も大丈夫です。朝食を摂れれば元気も戻ります」
やっぱりフィアとセレナはまだ疲れは残ってそうかな。かくいう僕もまだ気だるさはあるけど、フィアの言う通り今日はワンの店に素材を持っていって先ず話を聞くのが目的だからね。
冒険者としての活動は休みになるから問題はないね。フィアとセレナも同行してくれるんだし肝心の僕がへこたれていたら格好付かないし。
「はぁスイムには本当癒やされるわね」
「スピィ~♪」
フィアもスイムを撫でてホッとした顔を見せていた。
スイムも心地よさそうな顔を見せてるね。
「ぷにぷにしていて何だか食欲が増してきました」
「スピッ!?」
「スイムは食べちゃ駄目だよ!?」
セレナもスイムを愛でていたけどとんでもない発言まで飛び出して驚いちゃったよ。すぐに冗談ですよ、って笑っていたけどね。
その後は宿の食堂で朝食を摂らせてもらった。セレナは朝からパンを五つも六つも頬張っていて見ていて気持ちいいぐらいだ。
「それにしても昨日の連中には腹立ったわね」
「ネロがいるっていうのに私達にばかり声を掛けてきて失礼な感じだったね」
フィアはやっぱり昨晩の兄弟には思うところがあったようだよ。エクレアも苦笑して話題に乗っかっていたし。
「気にしても仕方ありませんよ。もう会うこともないでしょうからね」
セレナも一旦食事の手を止めて二人の話に加わった。セレナは冷静な考えをもっているね。確かにあの二人の事はもう考えないほうが精神衛生上良さそうだよ。
「セレナの言うとおりだね」
「そうね。気にしない気にしないと」
「スピィ~」
皆もセレナの意見には同意なようだ。僕もそのとおりだと思うよ。
「今日はそんなことは忘れて過ごそうよ」
「そうだね。それに今はネロの杖の方が大事だし」
エクレアがそう言って微笑んだ。確かに今日の目的は僕の杖だ。僕のことに皆も巻き込んでるようで少しもうしわけないけどね。
「ま、そうね。あのワンに手に入れた素材叩きつけてやりましょう」
「もうフィア。駄目ですよ。年長者には敬意を評さないと」
ワンに対しては辛辣なフィアだけどセレナは注意していたね。
「ま、善処するわよ」
こうして雑談混じりの朝食を終えた僕たちは宿を出てからその足でワンの店に向かった――のだけど。
「いい加減にしろ! この店はやらん! そんな金を積まれても無駄だ! 勿論孫もやらん!」
「ははは、一体何が不満だって言うんだい? この僕がこんなしょうもないチンケな店を五百万マリンで買った上お嬢さんまで貰ってやろうと言ってるのに」
ドアに近づくとワンの怒号とどこか軽薄そうな声が外にまで聞こえてきた。
えっとなにか揉めてる? いや、それ以前にワン以外の声に聞き覚えがあるんだけど――
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