第127話 失礼な男

 何かロイドという妙な冒険者に絡まれてしまった。いや絡まれたと違うのかな? 


 このロイド、僕のことはまるで眼中にないようで女の子たちにだけ興味があるようだ。すごく狙いがわかりやすい。


「いい加減にして! 私たち今はネロとパーティーを組んでいるんだからね!」

 

 遂にエクレアが眉を稲妻の如く動かし怒りの声を上げた。


「エクレアの言う通りよ。いきなり声をかけて少しは空気を呼んだら?」

「私は食事さえ食べられればもう満足なのです。それ以外に興味はありません」

「スピィスピィ!」


 そしてエクレアに追随するように他の皆からも顰蹙を買うロイド。スイムも湯気を立ててご立腹だ。


「なるほどつまりそこの男に何かしら弱みでも握られているってことだな。それならば最初から言ってくれればいいのに。照れ屋さんだなぁ」

「どうしてそうなるの!?」

「スピィ……」


 女の子たちの今の反応を見ても諦めないどころか僕が悪いことにされてるよ! 何かスイムも呆れて物も言えないって雰囲気醸し出してるし。


「一体何をどう捉えたらそうなるのよ」

「ははっ。そんなの決まってるじゃないか。そいつの――」

「ロイドいい加減にしろ」


 僕に向けて何かを言おうとしたロイドを遮るように別な男の声が届いた。


「何だ。レイル兄さんか」

「何だでばないだろう。全くお前という奴は女と見れば見境ないのだからな」


 兄さん……兄弟ということだね。ロイドが銀髪なのに対して兄のレイルは金髪で顔の彫りが深く優男といった雰囲気のあるロイドと異なりガッチリした体型だ。

 

 何となくだけど兄の方は戦士タイプのようにも思える。


「ちょっと貴方の弟なの? なら兄弟としてしっかり教えつけてよ。嫌がる女の子に無理やる言い寄るもんじゃないってね」


 フィアが席にやってきたレイルに意見した。流石フィアは誰だろうと忌憚なくものを言える。


「黙れ。下民風情がこの私に声を掛けるな身の程知らずが」


 だけどフィアに投げつけられたレイルの言葉に一瞬場が凍りついた。

 

 えっと、初対面で一体何? 弟と違って兄はしっかりしてるかと思えば不穏な空気が漂ってきたよ。


「レイル兄さん女の子にそういう言い方は良くないな。可愛い女の子は皆愛すべき存在だよ」

「ロイドよ貴様は由緒正しいカートス伯爵家の一員だという自覚を持て。声女にしてもそうだ。こんな有象無象の女どもに手当たり次第声をかけてどうする? もっと相応しい相手を選ぶのだ」


 僕たちの目の前で全く気にすることなくとんでもなく失礼なことを言ってるよこの人!


「全くそんなことだから兄さんはモテないんだよ」

「三流品の女になど好かれても何も意味がない。鬱陶しいだけだ」

「あの、さっきから少し失礼ではないかな?」

「スピィ!」


 流石に皆の気もちを考えたら黙っていられないよ。大体こっちはただ弟のロイドに声をかけられただけだし、断ってもしつこかったわけで。


「――チッ。面倒なことだ。ここの食事代は私が持つ。それでいいだろう」

「は、はぁああぁあ? 何よそれ! 勝手に声をかけてきて散々好き勝手口にして飯代奢るからそれでいいって何様のつもりよ!」


 フィアが怒り心頭といった様子で声を張り上げた。気持ちはすごくよくわかる。


「――食事代など自分たちで支払います。私たちはもう宿に戻りたいだけです」

「そうよ。正直私達も気分悪いしすぐにここから離れて貰いたいぐらい!」


 セレナが凛とした顔で言い放った。彼女の言う通り別に食事代なんて出して貰う必要ないよ。


 エクレアも言ってるけど失礼な二人とはすぐにわかれて宿に戻りたい。


 ただ彼らの発言には正直思うところもある。


「ごめんね空気読めない兄さんで」

「お前は黙ってろ。全く面倒ばかり引き起こしおって――にしても何から何まで無礼な連中だ。こんな奴らにかかわると品位が落ちる」

「ちょ、放してよ兄さん!」


 レイルがロイドの首根っこ掴んでそのまま引きずっていこうとした。


「待ってください。確かに食事代は必要ないけど、せめて一言謝ってくれませんか?」


 だけどこのまま黙って帰らせるだけなのは納得がいかなかった。食事代なんていらないし僕についてはどうでもいいけど、彼女たちへの非礼は侘びて欲しい。


「――あまり調子に乗るなよ下民。ロイドは女と見れば甘いが私にはそんな遠慮はない。貴様らごとき塵芥どうとでもなるのだからな」

「な――そんな言い方!」

「待ってもういいよネロ」

「そうそう。こんな連中話するだけ無駄よ」


 開き直ったようなレイルの反応に思わず頭に血が登った僕をフィアとエクレアが止めてくれた。


 おかげで僕も少しは落ち着くことが出来たよ。


「由緒正しい伯爵家とやらが聞いてあきれますね。自分の非すら認められないなんて」

「――フンッ。野良犬が」


 セレナは最後に二人に厳しい言葉を投げかけたけど、レイルという男は鼻を鳴らし捨て台詞だけ残してロイドを連れて去っていったんだ――

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