第126話 責任を感じる必要はない?
まさかあの三人が脱走していたなんて驚きだった。
「もしかして詰めが甘かったのかな……」
「スピィ~……」
思わぬ話を聞いて少し責任を感じてしまう。そんな僕を慰めるようにスイムが頭に乗って撫でるように動いてくれた。
「馬鹿ね。そんなのネロの責任でもなんでもないわよ。最後に騎士団に引き渡したわけだし詰めが甘いって意味なら騎士団側の方よ」
僕の様子を見たフィアが言った。落ち込む僕を励まそうとしてくれてるのかな。
「そうだよネロ。私たちはやれることはやったんだしね」
「そうそう。だいたいあの時あった騎士二人、随分と偉そうな態度だった割に逃げられちゃうなんて情けない話よね」
エクレアも優しい言葉をかけてくれた。そしてフィアは騎士団に対して辛辣だった。前に会った時のことを思いだしてるようだね。
「もぐ、ですが、もぐ、逃げたとなると、もぐっ、またどこかで悪事を働かないか、もぐもぐ、心配ですね……」
「しっかり食事取ってて心配も何もないわね」
会話中でも食べ物を口に運ぶことを忘れないセレナにフィアが呆れ顔だった。
でも、たしかにそこは気になる……。
「う~ん。でもこうなったからにはこれまで以上に騎士団も警戒するだろうし冒険者ギルドにも話は行くと思う。逃げた三人もそんなすぐに動き出すようなことはないんじゃないかな」
「確かにそうね。勿論あまり楽観視は出来ないけど、私たちの手からは離れたことなんだし頭を切り替えていかないとね」
「そうだよネロ。私たちにはCランク試験が待ってるんだから」
フィアとエクレアが強めな口調で言ってきた。確かにそれはそうだ。今回廃坑にまで向かったのは試練に挑むための新しい杖を作ってもらうためだった。
「もぐ、あ、追加注文いいですか?」
「まだ頼むんだ……」
「スピィ~」
そしてそんな中でもマイペースに食べ物の追加注文をするセレナだ。フィアはやれやれといった顔をしていて、スイムは、凄いな~、という気持ちで鳴いてるように聞こえた。
「試験といえばもう少ししたらガイとも合流しないといけませんね」
「あ~確かにそうかもね。そういえばガイの奴今頃何してるんだか」
ガイ――魔報を受けて実家に帰ってるんだったね。ガイの実家がどこかも僕にはわかってないけど。
でも、フィアも言っていたけど複雑な事情を抱えてるみたいなんだよね。
でもガイにとってもCランク試験は大事だろうからそれまでにはきっともどってくるよね。
「さて、と。もう私もお腹いっぱいだしセレナが食べ終わったらそろそろ宿に戻ろうか。何か色々あって疲れたし」
フィアが言った。確かに今日は中々の冒険だったからね。皆も結構疲れが溜まってると思うし宿に戻ってゆっくり休んだ方がいいよね。
「これはこれはまさかこんな場所でここまで素敵なレディに出会えるとは。これは僥倖だ」
セレナもそろそろ満足したようだし、宿屋に戻ろうかなと考えていた矢先、何だか軽い感じの男の声が僕たちの席に飛び込んできた。
見ると外側に向けて跳ねたような銀髪の男の姿。先端に女性の意匠が施された杖を持っているあたり魔法系の冒険者だろうか。
「どうだいこの出会いを祝してこの僕と一緒に朝まで飲み明かさないかい?」
「は? 勝手にやってきて何が出会いよ。悪いけど私たちはもう宿に戻るから」
「なるほど。一緒に宿に行こうだなんて大胆だね。だけど僕はそんな女の子も嫌いじゃないよ」
フィアが面倒くさそうに対応していたけど、何を思ったのか相手は宿に誘われてると思ったらしい。一体どういう考えでそうなるのか不思議だよ。
「あの、皆は僕の仲間で今日はもう疲れたので戻りたいんです」
とにかく皆疲れてるだろうしここは穏便に諦めてもらわないとね。
「うん? 何だ貴様は? 男にようはない。帰りたければ一人で帰れ」
「はい?」
な、なんだろうこの人。全く話が通じてないというか……。
「ネロは私の大事な仲間よ。勝手に帰るわけないんだから」
「なるほど。確かにまだ名乗ってなかったね。この僕は将来有望な期待の冒険者ロイドだ。その辺の有象無象な連中とは違うこの僕と仲良くしておいて損はないさ」
エクレアが文句を言うも、何を聞いていたのか髪を掻き上げて自慢気に名乗りだした。
期待のとか自分で言っちゃうんだ――
いや、それ以前に本当に話が通じてないよ!
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