第125話 三人の分岐点

「はは、ぎょうさん煙がでとるで。ありゃ暫くパニックやな」


 砦から脱走した三人は山道に入った。勿論誰も通らないような険しい道を選んでいる。


 その上で砦が見下ろせる場所までくると手をかざし砦の様子を眺め愉快そうにライアーが言った。


「派手なことはしない方がいいんじゃなかったのか?」

「仕方ないじゃない。貴方たちを助けるまでにはそれなりの数見てきたんだから」


 メンヘルが肩をすくめて見せる。仕方なかったといった言い方だが表情からは悪びれている様子は感じられない。


「フンッ、まぁ俺は全員殺しても構わなかったがな」

「それはあかんで。なんでも程々に、や。これからわいら逃げなあかんしな。あまりやり過ぎてプライド傷つけ過ぎるとなぁきっと蛇のようにしつこく追い回してくるで」

「そんなのもう手遅れだと思うけどね」


 けたけた笑いながら持論を唱えるライアーだったがメンヘルからすればもう十分騎士たちのプライドはズタボロである。


「さてと問題はこれからどうするか、やな」

「そんなものアジトに戻るだけだろう?」

「う~ん。あんさん真面目やなぁ。仕事になると結構エグいこと平気でやる言うのに」

「――俺は自分と村の仲間たちの為にやってるだけだ」


 ガルが真顔で答えた。ライアーがまじまじと彼の顔を見る。


「ま、そっちはしっちで好きにやればえぇな。一応仕事も終わったからのう。わいは適当にしますわ」

「あら、別行動ってこと?」


 メンヘルが問いかけた。もっともそれを責める様子はない。


「別にわいらそこまで仲がえぇわけちゃうしな」

「待て報告はどうするんだ?」

「はは、何を報告するんや。勇者殺しも出来ず作戦は見事失敗、ついでに暫く捕まってました堪忍してや、なんて真面目くさって答えたら面倒なことになるだけや」


 二人を振り返りライアーが戯けるようにして答えた。


「せやからほとぼり覚めるまでわいは適当にどろんさせてもらうで。あんさんらも悪いこと言わんから適当に時間潰しておくとえぇ思うで。ほな、さいなら」


 言うが早いかライアーが二人の前から姿を消した。


「……全く勝手な奴だ」

「ま、仕方ないわね。それに私も彼と考えは一緒よ。このまま戻っても確かに面倒くさそうだし。適当に時間をつぶすわ」


 そう言って離れようとするメンヘルの肩をガルが掴み足を止めさせる。


「……何?」


 ガルを振り返りメンヘルが問うた。眉が怪訝そうに顰められている。


「何じゃない。そんな格好でどこへ行く気だ」

「へぇ……意外ね。そういうの気にするんだ」

「……チッ。俺の村までついてこい。そこでまともな着替えぐらい用意できる」


 ボリボリと頭を描きながらガルが言った。メンヘルがくすりと笑う。


「ま、いいわ。確かにこのままってわけにいかないし」

「……だったらこっちだ。それと――もう少し自分を大事にしろ」

「――本当貴方って硬いのね」


 苦笑交じりに答えつつメンヘルはガルの後をついていくのだった――





「旅人さん知ってるかい。なんでも凶悪な罪人が逃げ出してどっかに潜伏してるらしいって」

「――へぇそうなんや」


 馬車の中でローブで身を包みフードを被った人物が答えた。辻馬車に乗り込んだ客であり三十分程荷台に腰を掛け景色を眺めていた。


 そんな時に御者の男性から声をかけられ答えた形だ。


「それで相手はどんな奴らでっか?」

「男二人に女が一人だったかな。女の方は黒髪でエロい、いや中々艶やかな女性らしいねぇ」

「そうでっか……大変でんなぁ」

「はは。案外あんたがその男の罪人の一人だったりしてな」


 そう言ってケタケタ御者が笑い出した。すると、フフッ、と馬車に乗っていた人物が囁くように笑ってみせた。


「嫌ですわぁ、うちこうみえて女、どすえ」

「へ? お、女。あんた女だったのかい?」

「はい――」


 フードを上げるとそこには長い銀髪の女がいた。

 振り返った御者が目を丸くさせる。


「いや、これはまた偉いべっぴんさんで。申し訳ないね。何故かわからないけどてっきり男だと思ってしまっていてね」

「かまへんよ。うちも敢えて性別をわかりにくくしてはるんどすえ。今言われたような罪人がうろついていたりここのところえろう物騒やし」

「はは、違いない」


 それから暫く雑談を交えつつ馬車に揺られた後、彼女は馬車を降りた。


「いやぁあんたみたいな美人さんならいつでも大歓迎だよ」

「お上手だことで。せやけどうちがその罪人かも――しれまへんで」

「はは、俺はこう見えて人を見る目には自信があるんでね。それに罪人は黒髪であんたは銀髪、やからな。おっとうつってしまったようだ」

「フフッ」


 そして御者が遠ざかったのを確認した後、彼女は踵を返し呟く。


「それはまぁ、随分と節穴なこって――しかし、こっちの姿も随分と久方ぶりやなぁ」


 そうひとりごちた後、空を見上げ、

「ま。暫くは適当に過ごすとしましょか

~」

と、鳥の飛んでいく方へ足を向け歩き始めるのだった――

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